4.3 おい美少女、その顔はだめだ。

 いじけたまま服を直します。

 そういえば、今来ている服。生地は違うけれど家で来ていたパジャマっぽい形をしています。


 私が休みやすいようにあつらえてくれたものかもしれません。

 色まで含めた再現度の高さ。参考資料をどう入手したのかに対する疑問は置いておくとして、なんだかんだで大切にはしてもらっているのでしょう。


 ……これもちろん、着せてくれたのベルちゃんですよね? うん。そうだそうに違いない。余計なことを考えるのはやめましょう。下手に詮索したところでいつもの「興味ない」で終わる流れが繰り返されるだけです。


 そんな私にベルちゃんが真剣なまなざしを向けます。

 

「ナガイ様は、マキ様がお好きなんですか?」


 いきなり直球はやめて頂きたい。

 

 一応今は「巻くんなんかもう知らねーよばーか」、という設定になっています。

 

 しかし、急に振られてしまうと繕いきれません。

  

「え、あ、いやそんなわけない? です、よね?」


 目がおよぎまくりです。

 というか聞いてどうする。

  

「お好きなんですね?」

「いやまあその……多少は……」


「大好きなんですね?」

「ど、どうかなぁ……」


 なんでこんなぐいぐい来るのでしょう。恋バナ大好き少女でしょうか? などと微笑ましくベルちゃんを見て凍ります。

 

 般若でした。

 

 おい美少女、その顔はだめだ。墓まで持ってけ。


「宿主が女性だって聞いて嫌な予感はしてたんですよね」


「ベルちゃん……」

「だから私も行くって言ったのに」


「あの……ベルちゃんも巻くん好きなの?」

「はっあぁっ!? ……失礼しました。いえ、全く好みじゃないです」



「……好みじゃないけど好きなことは好きなの?」

「……はい」


 素直だ! ベルちゃん可愛い。


「……あのね、大丈夫だよ」

「なにがですか。3年間も一緒にいたんですよね」


「うん。それでね、巻くんにも好きだって伝えたんだけどさ」

「!」


「結局振られちゃったんだ。なんでもないんだよ」

「……」


 あなたが恋敵だと思った私はすでに敗れ去っているのです。好きの反対は無関心とか言いやがったのはどこのどいつでしたっけ。まさにそれなのです。


「だからね、私はベルちゃんの恋路を邪魔できるような相手じゃないの」

「ごめんなさい。私てっきり……ナガイ様のような綺麗な方じゃ私なんかって……」


 ベルちゃんが天使すぎます。聞きました? 綺麗な方ですってよ?


 ずっと看病をしてくれていた彼女のおかげで今の私があるのです。諍いは本意ではありません。しかもその原因が巻くんだとか絶対認めたくありません。人としての尊厳に関わります。


 私たちふたりが争ってなんの意味があるというのでしょう。


「でも巻くんなんかにベルちゃんはもったいないよ。もっと『他に』いい人がいるよ」

「はい。ナガイ様もきっと、この世界で『新しい』素敵な出会いがあることでしょう」


 私とベルちゃんは、それはもう晴れやかに和やかに、友情を誓い合ったのでした。


 おほほほ。

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