4.2 ベルちゃんお肌つるつる

 また幾ばくかたち、もう普通に会話や食事もできるようになってようやく巻くん登場です。


 ぶったおれていたときからちらちら付き添ってくれているとポイント高いのですが、そのへんのいまいちなかんじは今始まったことではありません。巻くんはずっとこんなです。


 ……まあそもそも巻くんは私のポイント稼ぐ気ないですからね。ふん。


 とまあ、まだ体も本調子とはいかないのでつい毒づいてしまいますが、本当はいろいろ仕事があったのでしょう。


「他に食べたいものはございますか」


 夢うつつの時に時節声を出していた丸い塊はどうもこの少女で間違いないようです。おそらくもうずっと付き添って世話をしてくれていたのでしょう。


 ベルと申します、と名乗ってくれたこの少女は命の恩人ということになりましょう。年は私の2つ下、16だそうです。もう少し幼いように見えます。


 勝手に厄災を持ち込んだ上にむいてひっくり返してくれやがった巻くんとは比べものになりません。


「ありがとう」


 ベルちゃんお肌つるつるです。多分触るとぷるぷるです。私の看病で疲れているはずですが、無造作に束ねたように見える金色の髪がいいかんじにウェーブしています。


 私は巻くんが好きですし、じゃなかった好きでしたし、同性に抱く好意はあくまでお友達です。ですが、きめの細かい儚げな姿に、もし方針を変えるようなことがあるとしたら相手はこの少女かもしれない、とか思ってしまいます。


 ていうかもうほんと可愛い。意味わからん。

 

 この世界はこんなのがごろごろしてるんですかね。そりゃ巻くんも私に興味がわかないわけです。はぁ。


 ややあって、巻くんも戻ってきます。


「よく生き延びてくれた。まだ体調は万全ではないのだろうが、竜の力は完全に定着したと考えていいと思う」


 この男なりに心配はしてくれていたようです。


「これで竜に対抗する希望の芽がうまれた」


 そっちだよなぁ……。こういうときぐらいおまえが無事でよかった、とか言ってよ。


「あの。ずっと看病してくれてたよね? ありがとう」


 傍らの美少女、ベルちゃんに挨拶をします。


「とんでもない。ナガイ様が無事で本当によかった」


 目をうるませて優しく声をかけてくれます。

 

 巻くん、これだよこれ。こっちの美少女に乗り換えたほうが私は幸せになれるんじゃないだろうか。頼むから本当は男なんです、みたいなことになってはくれんか。


 かすかな希望を抱いてベルちゃんを眺めます。

 

 ……無理そうですね。ベルちゃんは儚い少女にみえておきながらおむねの育ちっぷりが半端ないのです。これで実は男の子、はないなぁ……。


「さあ剥がそう」

「なにを」


「紋章だ」

「……やだ」


 あれです。前に制服まくられて剥がされたやつでしょう。恥ずかしいわ痛いわでほんともうひどい目にあいました。

 

 ん?

 これからはがす?

 

「……というか。巻くんまたなんか私に貼ったの?」

「竜の力を押さえつけ、定着させるための紋章だ。貼らないわけにはいかない。腹に貼った」


「また勝手に!」

「意識ないんだから問題ないだろう。言われたとおり、ちゃんとひっくりかえさずにむいて貼ったぞ」


「おなかの場合はひっくりかえしてからむいてよ!」

「それじゃ貼れないだろ」


「マキ様は愛情や劣情など一切なしに、ただ実用の為に貼っただけなのです。ご容赦下さい」


 ベルちゃんが微妙に引っかかる言い方でなだめてくれます。

 まあほんとに興味がないんでしょうけどね。それはそれで腹が立ちます。


「自分で剥がすからいいよ」

「術者以外には剥がせん」


「……じゃあこのままくっつけとく」

「内臓全般、特に腸の動きが悪くなるぞ。おまえただでさえ便秘気味なんだからさっさと剥がせ」


 合ってるけど! 言い方! あとなんでそんなこと知ってるの!


「まあでも……確かにやだなぁ……」

「用件が済んだ紋章は剥がしたほうがいい」


「でも」

「いいからとっとと脱げ」


「嫌なものは嫌」

「嫌か。でもだめだ、脱げ」


「やっぱりだめなんだ……」


「ベル、ちょっと抑えててくれ」

 

「はい。すみません、ナガイ様」


「じゃあ脱がなくていい。手だけつっこんで済ませる。これならいいだろ」


「それなら……ん……ふぁ、むは、ちょっとまってくすぐったい」

「前回痛がってたろ。痛くないように気をつけてるんだ、我慢しろ」


「それは、あ、りがとう、あ、うはははは、ひぃ、やっぱりくすぐったいっ」

「いいから動くな。ベル、ちゃんと抑えてろ。手探りだと位置がわかりづらいな」


「ひゅひゅふひ、ほは、無理、止めてくすぐっ……ふぁん!」

「ほら、取れたぞ」


「今! 触った! お腹って言ったでしょ、なんでそんな上まで!」

「なにもしていない」


「胸触った!」

「気付かなかった」


 コノヤロウ。


「……えっち」

「大丈夫だ、興味ない」


 興味持ってよ。こんなのばっか……。


「また少し休め。起きたら今後の話をしよう」


 乙女のおなかその他を好き勝手まさぐりやがった巻くんはここで退場です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る