3章 ルーフェの地にて(コメディ)

4.1 深い沼の中

 長い間苦しみました。


 同じ夢を何度も、ずっと見続けました。


 足のつかない深い沼の中、ずっと息ができない感覚。

 ようやく顔を出して取り入れた空気は紫色ににごった毒の霧。


 希に夢から目を覚まし、誰だかの世話で自分が療養しているらしい状況は認識するものの、またひたすら深い沼に沈んでいく。


 体が暴れるのを沼のぬめりでゆるやかにとどめる。

 少し落ち着いても、息をする度にまた暴れ出す。


 ずっとそんな夢なのか現実なのか区別がつかない感覚を繰り返しながらも、澄んだ空気の中で横になっている自分が認識できる時間が少しずつ増えていきます。


 全体は分かりませんがそう大きくはない山小屋、といった風情でしょうか。


 寝具は若干硬い気がしますが、夢の中でずっと足が地につかない感覚を強制されてきた身としてはこのほうが生きている実感がわきます。


「お加減はいかがですか」


 少女の優しい声に向かってぼんやりと顔を向けますが、まだきちんと形を捕らえられるような病状ではないようです。


 それでも、今言葉が出てきたであろう暖かそうな丸い塊に向かって、「おはよう」とつぶやいてみました。


「マキ様! ナガイ様が声を!」

 

 丸い塊はすぐに大きな音をたてながら上昇し、声を上げながらどこやらに走って行ったのです。それを見て、また私は深い沼の夢へ落ちていくのでした。

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