3.4 せめてひっくりかえしてからむきなさいよっ
「じゃあ行こう。巻くんの世界へ。どうすればいい?」
「服を脱いでくれ」
「え? やだよもちろん」
「脱げ。そろそろ残り時間も少ないはずだ。急ごう」
「いやそれはちょっと、ってぎゃぁ、なにシャツ掴んでんの離して」
「上だけでいい」
「上でも下でもだめだって、や、まくるな」
「すぐ終わる」
「これ以上はだめ、胸見えちゃう」
「そんなものに興味はない」
「興味持ってよ!」
「どうしてほしいんだ」
「とりあえず服をまくるのやめてほしいです」
「そうか。だめだ」
「だめなんだ。って、ぎゃあぁ」
「おとなしくしていればすぐ済む。天上の星の数でも数えてろ」
「やだちょっと巻くんにしてはロマンチック……じゃないよ、あた、いたいいたい背中ごしごしやめて、むける」
「よし。とれたぞ」
「なにが」
「紋章」
ようやく巻くんが手を離してくれます。
あわてて制服を直して、巻くんをにらみます。
そして。
重大な疑問がわきます。
「ねえ」
「なんだ」
「……これ、最初つけるときどうやったの」
「大変だったぞ。おまえに気付かれないよう、寝ている間につけた」
「……勝手に家、っていうか部屋に入って?」
「もちろんだ」
もちろんだ、じゃねーよ。
「うぅ……え、ぱ、ぱじゃまは?」
「むいてひっくりかえして、背中に紋章を施した」
なんてことしてくれてんのっ!
「せめてひっくりかえしてからむきなさいよっ!」
「同じだろう」
「見えちゃうでしょ! いろいろ!」
「大丈夫だ、興味ない」
「だから少しは私に興味もって、って、あ、え、なにこれ」
私の体が光りだし、先ほど巻くんにまくられて直し切れていないお腹から光がもれます。さらに光が強くなり、制服を着ている意味がなくなります。真っ白。
巻くんが私を抱きしめます。
「光が収まったら一気にくるぞ。がんばってくれ。……絶対に死ぬなよ」
はなせー、と言いたいところですがおそらく移動に必要なことなのでしょう。これは不可抗力です。仕方がありません、許しましょう。あと、巻くんあったかい。
抱きしめられても今度は先ほどみたいに痛くありません。加減してくれているのでしょう。なんだ、巻くんでもやればできるじゃないですか。
急に光がなくなり、まぶしい光になれてしまった目は周囲の輪郭を捕らえきれません。
真っ暗闇にふたりぽつん、と残された気分です。
少し体が浮いたような感覚。
そのあとのことははっきり覚えていません。
こうして、私は巻くんの世界にたどり着くことになるのでした。
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