3.3 竜の封印
「それで。竜の封印がどうとかってのはなんなの」
ここから話がちょっと長くなるのでかいつまんでご説明します。
曰く、巻くんのいる世界は竜が暴れて滅びかけているとのこと。
このぬぼっとした男がいたのは別の世界とやらなそうなのです。……別に巻くんの頭がおかしくなったわけじゃない様子なのでまあ続きを聞いてやって下さい。
なんとかその力の一部を削り取って違う世界、つまりはこの世界に隔離して封印した。その封印先が私だそうなのです。いえ、もちろん承諾した覚えはありませんが。
竜の力は強大で、その一部とはいえ大変な力を持っている。3年はなんとか持ちこたえられるはずだがその後はどうなるか。
3年前の4月1日。私が高校生になった日に私におしつけられた封印。
封印の効力をどうすれば維持できるのかは分からないそうです。
少なくとも宿主が健康であること、精神的に満ち足りていることは絶対条件なのではないかとあたりをつけたそうです。
その宿主たる私のおもり役をおおせつかったのが巻くんだとのこと。
封印を維持できなかったときは。
その世界は時を止めるようです。
やがて腐り、崩れ落ちてなくなるまで。
「止める方法はあるの」
「ないことはない」
「どんな?」
「この世界に竜の力がなくなればいい」
「どういうこと?」
「竜の力を、おまえごと俺たちの世界へ連れて帰ればこの世界は無事だ」
「なんだ。私が巻くんの世界に行けばいいだけ?」
「ああ。だが封印はその時点で完全に解かれる」
「竜のもとに帰っちゃう?」
「その場合おまえは死ぬ」
「……それは困る」
「俺も嫌だ」
「あれ、巻くん本当は私のこと好き?」
「なんでそうなる」
「……どうすればいいの」
「竜の力をおまえに定着させる」
「そうすれば死なない?」
「おまえの体が持てば」
「持つものなの?」
「可能性はゼロではない」
いやそれ無理って言っているのと一緒ではないでしょうか。
「他にこの世界も私も無事な方法は?」
「ない」
「……」
「いや、ないこともないな」
「ほぉ」
「竜が今この瞬間、突然死ぬかもしれん」
「……そんな都合のいい。ありえるの?」
「可能性はゼロではない」
だめじゃん。
「ちなみに竜の寿命って普通どれくらい?」
「分からん。そもそも竜が死んだ記録がない。少なくとも数千年だな」
やっぱりだめじゃん。
「私が死なないで済む確率ってどれくらい?」
「ゼロではない」
巻くん。いま視線逸らしましたね。
こっちをお向き。おねーさん怒んないから。
「……でもどっちみちそれしかないんだよね」
「ああ」
「じゃあしょうがない。いこっか」
「すまん」
「どうすればいいの?」
「こちらの世界に宿主をとどめるための紋章を剥がす。紋章がなくなれば竜の力で俺の世界へ引き戻される」
「ほう」
「戻ると竜の力を抑える封印は効力を完全に失う。あとはその力をおまえが制御してくれればいい」
まあちょっと見込みはないのでしょうね。といって他に選択肢もないことですし頑張ってみましょう。
その前に。
「ねえ。竜の力とやらを私が制御できたら嬉しい?」
「当然だ」
「それでその、竜そのものをやっつけたりしたら喜ぶ?」
「そんなことが……いや、その可能性もゼロではない。当然喜ぶな」
「……私のこと好きになる?」
「なにを言っている。神とあがめる」
「私に好きだって言ってくれる? あ、本心でだよ」
「自分の大切な人たち、世界を救ってくれた人ということになる。言うまでもなく心から愛する。どんな無理を言われようと従う」
んんー、相変わらずちょっと違うんだけどまあいいか。
「じゃあ私が世界を救ったら、私に告って」
「わかった」
「必ずだよ?」
「約束する。身命を賭す」
「身命は賭さなくていい」
「そうか」
巻くんの世界を私が救ってやる。
巻くんに告らせるんだ。
そして、こっぴどく振ってやろう。
ざまあみろ。
……だから泣いてませんって。ほんとですよ?
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