3.2 竜ってなに。馬鹿にしてんの?

 えー、結論からいいますと、本当に世界の終わりでした。

 回避はできるのですが、どうも私が身代わりっぽいです。

 

 ついでに私の恋も終わります。

 こっちはどうにもならないっぽいです。


 巻くんも筋道たてて説明してくれていれば私もちゃんと聞いてあげられたのです。なんといっても3年間想い続けた男の子です。憎かろうはずがありません。


 残念ながらそのときの巻くんはもう、いっぱいいっぱいでした。


「何が気に入らなかった。3年間俺はずっと! くそっ!」


 巻くんが見たこともない表情で私に言い捨てます。全身で怒りながら、表情だけ泣いているような。


「言ってみろ! おまえが誰か好きになるなら全力でとりもつつもりだった。それが俺だったのなら、できることはなんだってしたんだ。なんで早く言わないっ」


 字面だけ見ると攻撃的なかんじがすごいですね。実際はちょっと泣きが入っているので言い返していいのか慰めていいのか分かりません。


 ただ文言の一部に聞き捨てならないことが含まれています。とりもつとかどうとか。


「どういうこと? 巻くんもその、私のこと好きでいてくれたんでしょ?」

「俺のおまえへの想いはそんなものじゃない」


 え。なんでしょう、それ。

 いやいや、好きとかいうレベルじゃなく大好き、とかかもしれない。でもやっぱり、違うかなぁ……。


「とにかくおまえを満足させるしかなかったんだ。それなのに……」


 頭を抱える巻くん。

 いや、泣きそうなのこっちなんですけど。

 

「嘘ついたの?」

「嘘?」

 

「私のこと好きだって言ったこと」

「正しいだろ?」


 正しい?

 

「どういうこと?」

「おまえが俺のことを好きだと言ったからだ。俺もそう返した。それがおまえにとって一番嬉しいはずだ。違うのか?」


 なーんーだーとー。


「わたしは、巻くんが好きなんだよ?」

「だから俺もそう言ったはずだ」


 会話が成り立っていません。


「巻くんは私のことどう思っているの?」

「何よりも大切だ」

 

「じゃあ好き?」

「恋愛などどうでもいい。おまえがどれだけ大切な存在か分からないのか」

 

「……」

「おまえが望むように生きて、全てうまくいって、何の苦もなく楽しく生きてくれていれば……竜の封印は維持できたかもしれないんだ」


「竜ってなに。馬鹿にしてんの?」

「真剣だ」


「……」 

「俺はおまえの生活のサポートをしてきたはずだった。だが不十分だったんだな……」


 私の高校生活が苦痛でなかったことは確かでしょう。ですが、何の苦もなくなんてどうあがいても最初からありえないのではないでしょうか。


 実在しないでしょう、そんな人。

 もちろん私も含めて。

 

「……きちんと確認しておきましょう」

「なんだ?」


 もう答えは出てるんですけどね。

 

「先ほど私は巻くんに告りました」

「ああ」


「そのお返事を下さい」

「俺も好きだと言ったろう?」


 自分で傷に塩を塗り込むのもどうかと思いますが、これは私自身の成長に必要なことです。完膚なきまでに叩きのめされた上でのりこえなければなりません。

 

「違う。巻くん自身が今、恋愛対象としての私をどう思っているか」

「恋愛対象として、か」


「そうだよ」

「考えていない」


 言い方! こっちは覚悟して聞いているのでいいんです、だめならだめで。でももう少しこう、なんとかならないんでしょうかこの男は。 


「じゃあなんでさっきキスしたのっ!」

「おまえが望んだからだ」


 泣きそう。

 

「巻くんはキスしたくなかった?」

「どちらでもかまわん」


 残念ですが試合終了のようです。


 でもちゃんと振られたぞ。

 私がんばった。

 大丈夫、泣いてない。

 

 巻くんの脳内がどうなっているのかはさっぱり分かりませんが、私に恋愛感情などない、と。このようにおっしゃっております。けっ。


 追い打ちをかけるように巻くんがひとこと。


「たいしたことじゃないだろう?」


 たいしたことに決まってるだろ。

 ばーかばーか。

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