3.1 世界が滅ぶ
「心残りはないな?」
「大げさだねぇ。そんなこと言い出したらお昼休みに一緒にお弁当だとか、休みの日にデートで観覧車だとか。きりがないよ」
観覧車とかほんとはどうでもいいのですが、まあテンプレっぽいのをとりあえず口にしてみます。まあ巻くんと一緒ならなんだっていいのですよ。
はにかみながら巻くんの顔を覗くと真っ青になって固まっていました。夜だからそう見えるのでしょうと、この時点では特に気にしません。
「もう日付かわったかな」
「……」
「二人とも大学生だ。これからもよろしくね」
巻くんが真っ青になったまま動きません。
「巻くん?」
「黙っていろ」
声が固い。あれ、なんか気に障ること言ったかな。
「時計はあるか?」
「ないけどスマホならあるよ」
「何時だ」
「0時0分」
「少し待とう」
「?」
別に怒っているわけではないようですが、何を気にしているのかわかりません。
しばらく二人とも無言です。
「どうだ、何時だ」
もう話しかけていいのかな、と巻くんを覗いたところでまた時間を聞かれます。
「0時0分だよ。あれ、まだ変わってないね」
「そうか」
「なにを気にしてるの?」
「時間がちゃんと進んでいるかだ」
どういうことでしょう?
巻くんが自分の腕時計を私に見せてきます。
ぴったり0時0分。
秒針も止まったままです。
私のスマホもまだ0時0分のまま。
さすが運命の二人。仲良く電池切れでしょうか。あれ、それなら画面も映らないか。
「だめだったようだ」
「なにが?」
「すまん」
「だからなにが?」
「この世界はこのままいくと滅ぶ」
世界が滅ぶ。いきなりお茶目なことを巻くんが言い出します。普段とのギャップがたまりません。
大好き!
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