2.3 しゃべりながら走る元気があるんだったらもっと速く走れ
実際は違います。
「巻くん、待っ、て、」
「腕を振れ。下を向くな。ペースが落ちる」
違うよ巻くん。
私が思ってた恋人同士の登校はこんな苦行じゃないよ。
あともう息が持たない。待って。
「巻、くん、ちょっと、まって、違う」
「む」
ようやく巻くんが止まってくれます。
「違うのか」
いや、今ほんと息が。しゃべれない。
「はっきりしろ」
何度か深呼吸してようやく声がでます。
「違うって。普通か、かか彼氏彼女で登下校とかいったらもっとこう、おしゃべりしながらとか手をつないだりとか」
いえ、どもってませんけど? 息が切れてただけです。
……嘘です。口に出すの恥ずかしい。か、かかかれー食べたい。
「余裕だな……しゃべりながら走る元気があるんだったらもっと速く走れ」
ちっげーよ。何言ってんだこいつ。でも好き。
「ちゃんと一緒に行くから。もう少しゆっくり行きたい」
「それがおまえの希望?」
「うん」
なんかおおげさな物言いです。まあこの人はいつもこんなかんじなので特に気にしません。
「分かった。ならゆっくり行こう。ほら」
「?」
なんか巻くんが手を出してきます。え、握っていいのこれ?
「早くしろ。手をつなぐんだろ」
うわ、握られた。待って、いま汗かいててじとじと。あ、でももういいや、これで。ぐへへ。……じゃなかった、えへへ。
「じゃあ行こう♪」
「ああ」
私、今めっちゃ浮かれています。ですが、これはしょうがないと言わざるを得ないのではないのでしょうか。
「長井、ちょっと遅くないか?」
「速いぐらいだよ」
「そうか」
できるだけゆっくり歩きたいのです。
「ところで学校行ってなにするの?」
「なにも予定はない」
「ないんだー」
「おまえはないんだな? したいこと」
「いきなり学校連れていかれてるんだよ。ないよ」
「よし。ならいい」
のんびり歩いていたつもりですがほどなく学校に着きます。
「中には入るの?」
「用事があるなら入れ」
「そんなのないけど」
「じゃあ帰るぞ」
「なんでそんな急ぐの」
「下校が終わってない」
「私が登下校って言ったから?」
「ああ」
「うーん。じゃあ、下校はなしで」
「いいのか」
「折角来たんだしね」
「本当にいいんだな?」
「いいよ。というか、結局最後は帰るでしょ」
「0時まわるぞ」
0時になれば確かに私たちは高校生ではなくなります。それはまあその通りなのですが、このシンデレラの魔法は0時になっても解けません。大学生になっても巻くんは私の彼氏のままなのです。
それでも、あともう少しで高校生じゃなくなることが何かの期限のような感覚。この感覚を巻くんも私と同じように感じてくれていたのなら嬉しいですね。
「そんなのいいよ。教室行ってみよう」
「行きたいのか」
「行きたいかも」
「じゃあ行こう」
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