7 水のそこにある星空

 水のそこにある星空


 綺麗。本当に綺麗だね。


 ありがとう。……本当に、……どうもありがとう。……星。


 星は最近、夢を見た。


 本当にずいぶんと昔の夢だった。


 もう思い出すこともないと思っていた、あの当時の、……昔のことを、最近急に思い出した。ちょっとだけ胸が、心が痛くなった。

(それは、もうあまり思い出したくないと思っていた、孤独な子供時代の思い出だった)


 本田星は空を見上げる。

 そこには月があった。

 大きな、真っ白な色をした、『ちょうど完璧に半分に切られた半月』があった。

 その月の形を見て、星はいつものように『自分の失った人の、大きさ』を思い出す。(思わずちょっとだけ泣いてしまいそうになる)

 ……いけない。いけない。こんなんじゃだめだよ。今は泣いている場合じゃないんだからね。よし。いけるよね。私。 

 わざとにっこりと笑って、そんなことを星は思う。


 本田星は今、真っ暗な夜の中にいる。


 ……自分の失ったものを、取り戻すために。

 そのために私は、この真っ暗な夜の中に足を踏み入れたんだ。


 自分の親友である山田海を救うために。

 ……星の最愛の人である、また星を救ってくれたた命の恩人でもある(海はそうは思っていないと思うけど)海を、今度は自分自身が助けるために。

 

 星は、今、海(あなた)のもとに向かって全速力で駆け出していく。(そのための命だと思った。海からもらった、……たくさんの愛なのだと思った)体が動く。勇気がある。愛がある。だから私はなんだってできると思った。(きっと、世界だって救える。海が私の世界を救ってくれたように……)

 そして、月が、真っ暗な世界の中に輝く美しい星空の光が、星の行く道を星がくらい夜の中で迷子にならないように、ずっと、その明るい光で照らし出してくれていた。 


 半分の月と綺麗な星空を見て、星は思わずにっこりと笑った。


 ……海、待ってて!! 今私が、必ずあなたのことを助けに行くからね!!


 バランスのとれた綺麗な姿(あるいは形)で大地の上を走りながら、星はそんなことを心の中で叫んでいた。


 星のいる世界に冷たい雨が降り出したのは、それからすぐのことだった。


 さっきまで見えていた半分の月も、美しい星空も急にどこにも消えてしまったかのようにして見えなくなった。(やっぱり、この世界は意地悪だった。まあ別にいいけど)


『いいかい。よく聞いて。これはとても大切なことだからね。君が世界を諦めたら本当に君の世界は終わってしまうよ。だから雨が降ってきたくらいのことで、君は自分の世界を諦めたりしたらだめだよ』と、そんなことを暗い闇の中から魚は言った。


「そんなこと、言われなくてもわかっているわよ」と雨の中を走りながら本田星は自分のパートナーである(口うるさい、おしゃべりな)黒い魚に、少しだけ意地悪な口調でそう言った。

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