5 美しい星をつかむ

 美しい星をつかむ


 海は自然とその星空に祈りを捧げた。


 その祈りはかなり長い時間、続いた。(その間、海はずっと膝を折り曲げて、両手を胸の前で握って、ずっと美しい星空の光にだけ、目を奪われ続けていた。首が疲れても、目が痛くなっても、その星の光から目をそらすことがどうしてもできなかった。


 それから海は星空に向かって手を伸ばした。その星に手が届かないとわかってはいたけれど、手を伸ばさずにはいられなかった。


 あの星をつかみたいと思った。


 あの星空に手を届かせたいと(心の底から本当にそう)思った。


 山田海は真っ暗闇の世界の中で立ち上がった。


 私は、こんな場所で一人ぼっちで泣いている場合じゃない。そんなことを山田海は思い出した。

 海にはやるべきことがあった。


 それは星を探し出すこと。


 いなくなった本田星を探し出して、困っている星を助けてあげること。

 それが星の世界で一番の友達である自分がすべきことであり、また『この広い世界の中で自分一人にしかできないこと』だと海は知っていた。

 だって、海は星の一番の友達だから。


 海は星のことが大好きだったから。


 出会った頃からずっと。今も昔も、……そしてきっと、これからも。(ずっと、ずっと大好きだったから)


 海は真っ暗な闇の中を走り出した。


 陸上のエースである海の走りはまるで風のように速かった。美しいフォーム。崩れない呼吸。リズムを奏でるような足音。

 完璧な形がそこにはあった。


 それは本田星がずっと、子供のころから憧れ続けている山田海の走るときの姿(あるいは形)だった。


 星の憧れた海が、(海本人も今の今までずっと忘れていたのだけど)そこには確かにいたのだった。


 やがて海の後ろ姿は本当に真っ暗な深い闇の中に消えて行った。


 海のいなくなった闇の中には、彼女の見つけた美しい星空だけが遥か高い場所にある、果てしない空の中に(誰にも見つけられることもなく、ただひっそりと)残っていた。

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