3 見えない顔。……あなたのこと。

 見えない顔。……あなたのこと。


 ……星。ごめんなさい。本当にごめんなさい。……私、本当に自分勝手だった。自分のことしか考えていなかった。ずっと一緒にいたのに……。あんなに楽しくて、幸せな時間を私たちはあんなに長く一緒に過ごしてきたというのに、……星。ごめんなさい。


 ……私、『あなたの顔が思い出せない』の。


 ……あなたの顔を覚えてないの(ごめんなさい。本当に最低だよね。私。……本当に馬鹿だよね。私は)


 あなたの顔に、もやがかかっている。黒い靄のようなものが、かかってる。(それはきっと私の未成熟な自我、あるいは醜い欲望、もしくは子供っぽい甘え、……心の、気持ちの弱さかもしれないけど、そんな醜い心が、感情がそのもやの正体なんだと思うんだ)あなたの姿は思い出せるけど、あなたの声や、あるいは匂いは思い出せるけど、どうしても、その顔が思い出せない。見えないの。

 ……星。

 ごめんなさい。


 ……本当に、本当にごめんなさい。そう言って、真っ暗な世界の中で山田海は一人、顔を両手で覆うようにして、まるで仮面でもかぶるように、あるいは、その顔を恥ずかしさや後悔の気持ちから、隠すようにして、その場所に膝をおるようにして、うずくまって、……ただ、静かに泣いた。

 

 ……ずっとずっと、一人ぼっちで泣き続けていた。(世界の全部を涙でいっぱいにするまで)


 そんな海に『一つの奇跡が起こった』。


「……海。もう泣かないで」

 

 そんな懐かしい声が聞こえた。絶対に忘れることのない声。その声は間違いなく、海が顔を忘れてしまった少女、海の親友、本田星の声だった。(ただ、その声は今の星よりも少し幼いときの、もっと小さいときに、二人が出会った当時のときに聞いたことがあるような、そんな子供の星の声だった)

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