第9話 厄介者が増えました
「それでは練習を始めましょう。今度の第三次人間殲滅作戦は前回と違う編成で臨みます。前回は人間の王の帰神への対策が不十分でした。奴は“楽の神ファーシル”を使います。主に風や竜巻を操る技でありますので、全滅を避けるため我々は固まるのではなくできるだけ分散して敵陣へ向かいましょう」
たしかゼオライトの帰神は“怒の神ララービア”だったか。彼は雷を操っていたので、帰神にはモチーフとなる技があるようだ。隊が固まっているところに竜巻など起こされたら確かにひとたまりもない。この作戦はまあ妥当だろう。
「それではこれから各隊の編成をお伝えしますので、各自集まって動きの確認をした後、刀稽古に入ってください」
私やその他の魔族達は5グループに分けられた。ここにいるのは魔族の中でもトップクラスの精鋭であり、ここの者たちが一般兵の魔族達を率いて戦うらしい。
「わ~い! えすてるさんと一緒の隊だあ~! 嬉しい! 頑張ろうね!」
「うわ」
トリンがまた目に涙を浮かべた。露骨に嫌な顔をしすぎてしまっただろうか。
「まさかエステル様とトリン様と一緒に戦えるなんて思ってもみませんでした! 僕はクレインと申します。まだ未熟者ですがどうぞよろしくお願いします」
エステルとトリンに話しかけてきたのは黒髪に少し青みがかった、体格の小さめな少年だった。そこらの屈強な魔族達とは少し引け目をとるが、その目はキラキラと輝いており、私たちに心から憧れている様子が伺える。
「あれあれ~見たことない顔だね。新入りくん?」
(へえ、私はもちろんだけど、トリンちゃんも知らないとなると最近騎士になったとかそういうことなのかな?)
少年は少し顔を赤らめて、緊張したように言った。
「はい、僕、この第三次作戦からこちらに参加させていただきます! 前回は一般兵として参加していたんですけど‥‥へへ、少し出世しまして‥‥」
「そうなんだ〜。出世おめでとう! 私、記憶なくて色々迷惑かけちゃうかもだけど仲良くしてくれると嬉しい~」
「も、もちろんです! むしろ恐れ多いというか‥‥。僕ずっとエステル様のファンだったんです!」
クレインは本当に嬉しそうな顔をして言った。全く、ファンを作るなどエステルは罪な女だ。今の私では幻滅してしまわないか心配だ。
「おりゃおりゃ~、くれいんくん、くれぐれも足を引っ張らないでよね~! なんたってこのチームが人間の王への特攻部隊なんだから~」
そうだ。このチームは全10人で、エステルとトリンが入っている時点でわかると思うが一番の火力部隊だ。他のチームが分散展開して敵をかく乱している隙に、この精鋭チームが敵陣の核まで攻め込み王の首を獲る。そういう作戦だ。
「そうですよね‥‥。この僕も、前回の戦いで亡くなられた騎士の方の補充で出世したんですし‥‥。でも絶対に足だけは引っ張りません! 頑張ります!」
こういう熱を持った性格は嫌いじゃない。なんというか、こちらまで燃えてくるのだ。私はこういう子をすごく応援したくなるタチだ。
そんなことを呑気に考えていたとき――――
「第二騎士団、ただいま無事帰還いたしました!」
覇気のある大声と共に、50名ほどの魔族達が練習場の入り口に整列してきた。ここにいる騎士たちと同じ赤色の隊服を身にまとい、やはり体格の良い魔族達がズラッと並んでいた。
「おや、早い帰還だったな。戦後処理は問題なく済んだのか?」
団長のベンゾイルが、第二騎士団と名乗る魔族達の中でもひときわオーラのある男に話しかけた。
「ああ、もちろんだ。滞りなく行ったぞ。それより次の殲滅戦の作戦が決まったようだな。こちらの隊も合流させるとしよう。おいお前ら! 各自、自分のチームにつけ!」
そう男が言うと整列していた魔族達が威勢の良い返事をし、それぞれ私たちが作っていたチームに加わっていった。先ほどのチームはまだ全員ではなかったようだ。このエステルたちのチームにも数人来た。
「へー、騎士団には第一と第二があるんだね。意外と規模が大きかったのか」
「あ、えすてるさんはご存知ありませんでしたねー、第一騎士団と変わらないぐらいの兵力を持つ騎士団なんですよー。もちろん今度の戦いは総力戦なので、両騎士団が加わるみたいですねー」
「なるほど、そういうもんn」
「「「エステルゥゥゥゥゥゥゥゥゥ」」」
誰かが私にめがけて突進を食らわしてきた。
「きゃああ! 誰よ!!!」
「そんな、誰だなんてひどいじゃないか! 君の愛する弟、リゼルグじゃないか!! 長いこと一人にしてごめんよおおお」
私に全力で抱きつきながらエステルの弟だというこの魔族は、エステルと同じ金髪で長身、右目の下に涙ボクロのある男だった。
「あ! あなたがリゼルグ‥‥! え、もっと幼いと思っていたのだけれど‥‥。予想以上に大きいわね‥‥?」
「なに言っているんだいエステル、そんなに僕に会えなくて恋しかったのか‥‥。僕の心は嬉しくて爆発数秒前だよ‥‥!」
なるほどエステルと並んでも見劣らない美貌を持つこの男は、本当にエステルの弟ではあるのだろう。そして良くわかった。エステルが、弟が未熟者だから面倒を見ろと言った理由が。‥‥こいつは身体的にではなく精神的に幼いようだ。
そしてもうひとつわかった。あのエステルと語り合った夢だったかのような空間は、決して夢ではなかったと。私の知りえない情報をエステルから聞き、ちゃんと現実と合っていた。私は本当にエステルに会っていたのだ。
「はあ‥‥。面倒ごとを押し付けないでよね、エステル‥‥」
私は大きくため息をついた。
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