第9話 放課後に3人目のヒロインと……

俺は1人、公園のブランコで夕焼け空を眺めて、黒羽先輩に言われた事を思い出していた。




『どうしたらいいですかね……この状況……』


わ。そんな事より来週の土曜日は空いているかしら?バイトを頼みたいのだけど……』




「はぁ……どうでもいい。か……」


俺はつい黒羽先輩に言われたことを口に出してしまっていた。


にしても『どうでもいい』って酷すぎないか……

今度なんか仕返ししよう。土曜日にでも実行だ。


俺が悪巧みを考えていると……


「何がどうでもいいんスか?」


「うわっ!?」


後ろから耳元で囁かれる。

その声は実に色っぽく、俺には少々刺激が強すぎる。


「にゃはは、ビビってる〜可愛い〜」


「お前、何すんだよ……五十嵐いがらし


「にゃはは、すみません………ってなんで私の名前を知ってるんスか?」


「やっぱりお前もかよ……」


こいつは五十嵐千冬いがらしちふゆ。中学でのバスケ部元主将。桜が入っているバスケ部の先輩で俺の後輩。桜と仲良しでよく家に来たりする。


またもや美人。

もはや恒例となっている。


「……折本先輩?」


「おう。そうだぞ。

で?お前もどうせ本人確認とかすんだろ?」


「まぁ、そうッスね〜

んーじゃあ先輩。私の胸は何カップでしょーか?」


五十嵐はなにを言っているんだ……

こいつのカップなんて俺は聞いた事ないぞ?

いや、まさかどこかで聞いた事があるのか……?


「にゃはは、すみません。先輩。ちょっと意地悪でしたね……ってなに真面目に考えてるんスか?そんな凝視して……はっ……もしかして、私で想像しているんスか?やめて下さい。気持ち悪いです。本当に最低です。」


五十嵐がまるでゴミを見るような目でこちらを見ながら胸を抑える。


安心しろ。お前の慎ましやかな胸などで想像なんてしてないぞ。


「そ、そんな、わ、訳ないだろ!?」


………やばい。あからさまに動揺してしまった。

本当にやばい。通報される。


桜、ごめん。俺は冤罪で捕まるかもしてない。


「にゃはははは、動揺し過ぎッスよ。せーんぱい?」


「ごめんなさい!!通報しないで下さい!俺には大事な妹がいるんです………」


俺は『秘技・ジャンピング土下座』を披露し、五十嵐の前で謝罪をする。


……って、あれ?

なんかあまり怒ってない?


俺は恐る恐る、顔を上げ、五十嵐の顔を確認する。


「うっわ……」


全然そんなことはありませんでしたー!

めっちゃ怒ってる……目前でこの世のものとは思えない汚物を見るような、そんな視線をひしひしと俺の背中を刺してくる……


「はぁ……先輩?さっきのは冗談ですからね?」


「え?」


じゃあ、なんでも俺をそんな目で見るの?

俺になにか恨みでもあるの?


「ただ、桜ちゃんに対する愛が重くて……少し、いや大分引いたっていうか……気持ち悪いっていうか……」


「ぐふぅ!」


気持ち悪い……気持ち悪いか……

そうか……俺は気持ち悪いのか。


「五十嵐、お前酷いな……

せめてもっとオブラートに包んで欲しかったな…」


「およ?結構傷ついちゃいました?」


「ああ、めっちゃ傷ついた。」


「そっスか……すみません。先輩。

でも桜ちゃんへの態度は改めた方が良いッスよ?

ほら、桜ちゃんも年頃なんで気になっている人の1人や2人いるはずっス。」


桜に……好きな人……だと……


俺は聞いてないぞっ!!俺の桜に近づく不埒者は!!

成敗してくれようぞ!!


「誰だ!その桜が好きな奴ってのは!!」


「お、落ち着いて下さい。先輩。あくまで想像の話ッスよ?でも、桜ちゃんは告白されても全員断っているので誰か好きな人がいるかもって思っただけっスから……」


「なんだ。それだけか……」


良かった。って告白されてるの?

桜って実はめっちゃモテるんじゃ……


「桜ってモテるのか?」


「ええ、めっちゃモテてますッスよ?

私が知っている人数だけで30人はゆうに超えてるッス。」


30人……俺のクラスと同じ人数……

すげぇ……桜すげぇ……


「まぁ、そうだろうな。

桜は可愛くて賢くて優しいしな……男共は桜を放って置く訳ないか。」


「中学の時でも『慈愛の精霊』とまで言われてましたからね〜」


全く持ってその通りだ。桜は可愛い。

とっても可愛い。大事なことなので2回言いました。


「それに桜は───」


俺は五十嵐と駄弁っているのに夢中になっていると

キーンコーンカーンコーンと5時を知らせるチャイムがなった。


「あ、もうこんな時間か。そろそろ帰るわ。

じゃあな五十嵐」


「わかりました。じゃあまた会いましょ〜」


俺は五十嵐に見送られながら、自宅への帰路に着いていた。



さて、今日の晩御飯はなにを作ろうかな。

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