第10話 ヒロイン達は決意する。

私、小柳菜緒里こやなぎなおりは困惑していた。


私の大好きな人がとってもカッコよくなった。


それ自体は嬉しいことだ。

でも、これで空くんの事を独占出来なくなってしまう……


今までは空くんはみんなにあまり干渉せず、

1人で行動していたので私だけが空くんを独り占め出来ていた。


けど、空くんは変わってしまった。

大好きな空くんがみんなに狙われてしまう。


心は嬉しさと不安の混じった、よく分からない感情に支配される。


私は考えた。

どうやってこの感情を振り払えばいいのかを。


そして、私はひとつの回答を思いついた。


そうだ。空くんと幸せになろう。

そうすれば、嬉しさで心は1色に染まる。


私は、空くんが大好きだ。


そして私は………


「よし、これからは頑張って、空くんを振り向かせるぞっ!」


「おや〜?我らが聖女様はやっとその気になりましたか〜?」


「きゃっ!?」


友人の双葉蘭ふたばらんに後ろから声をかけられる。


ビックリした……


彼女は私の想いを知っている数少ない友人だ。


「そ、そんなんじゃないからっ!!」


「あれ〜?さっき『これからは頑張って、空くんを振り向かせるぞっ!』って聞こえたのは気のせいだったのかなぁ?」


「う、うぅ……」


「全く、なおりんは可愛いなぁ〜もぉ〜」


私は蘭に頭を撫でられる。


「私は、菜緒里の味方だよ?」


「蘭……」


私は嬉しくなって蘭に抱きついてしまった。


私、頑張るよ。

きっと空くんと幸せになる。



そう、夕焼けの空の下で決意した。





***************





私、黒羽白くろばねましろは驚愕していた。


私の想い人は見る人全てを誘惑させるような甘いマスクを手に入れていた。


いや、もともと持っていたのであろう。

今まではそれを生かせられなかっただけ。


私は空くんが好きだ。


でも、彼には私が別の人が好きという事を言っている。


もちろん、川原さんにはこの事は相談してこの嘘を許可させて貰っている。


この嘘は最初はただの会うための口実でしかなかったが、今では私の想いを伝えるのに邪魔な枷になってしまった。


川原さんには申し訳ないことをした。

それでも川原さんは『大丈夫ですよ。気にしてませんから。』と言ってくれた。


本当にいい執事に恵まれたものだ。


でも川原さんに、『ツンデレ』と言われたのは頂けない。ひと昔に流行った言葉なので説明は省くが、

こればかりは許せない。


別に私はツンデレじゃないわ。


「はぁ……なんでこんなめんどくさい嘘をついてしまったのかしらね……」


「どうしました?お嬢様?」


「いえ、なんでもないわ。

ただ……私がもう少し素直だったら簡単に空くんと付き合えられたかもしれないと思ってね……」


私は運転席に座っている川原さんについこんな弱音を吐いてしまった。


「そうですね。お嬢様は本当に面倒な虚言を折本様に言ってしまいました。」


「やっぱり、そう思うわよね……」


「でも、お嬢様。これからです。これからはちゃんと自分に素直になりましょう。そうしたら、きっと折本様は振り向いてくれますよ。」


「川原さん……」


「多分」


「ちょっと!!」


川原さんは『ははは、すみません。』と言いながらも、とっても楽しそうな顔をしていた。


こうやって話していると、やっぱり川原さんはいい人ね。


「あ、そうだ。川原さん。来週の土曜日に空くんが来るから準備しといて。」


「お客としてですか?」


「アルバイトとしとよ。」


「承知しました。お客としていらっしゃるのはお嬢様の夫としてからですもんね。」


「川原さん。そろそろ本当にクビにするわよ?」


私は川原さんの『そんな横暴な〜』と文句を聞き流し、車の外を見た。


綺麗な橙色をした夕焼けが街を塗りつぶされた姿はとても幻想的だった。


空くんはカッコよくなった……

それが私をさらに空くんを意識させる。


「空くんも、この夕焼けを見ているのかしら……」


私は、いつかこの綺麗な夕焼けを大切な人と一緒に見ると、静かに決意した。






*****************






私、五十嵐千冬いがらしちふゆは知っていた。


私の先輩がイケメンになっていたことを。


桜ちゃんに先輩がカッコよくなったという事を聞いていたからだ。


でも、正直ここまで変わっているとは予想外だった。


私は先輩の事が大好きなので、

カッコよくなったってのはとてもいい事だ。



キーンコーンカーンコーン



「あ、もうこんな時間か。もう帰るわ。

じゃあな五十嵐。」


「わかりました〜じゃあまた会いましょう〜」


先輩の背中を見えなくなるまで、私はただ眩しい太陽の方向を見ていた。


私は先輩が大好きだ。


「でも、あんなイケメンになったら、みんなが放って置くわけないっスよね……」


私は怖かった。


先輩に誰か大事な人が出来て、私に構って来なくなるかもしれないと、私のことなんてどうでもよくなるかもしてないと。


そこで私は思った。


自分が先輩の大事な人になろう。


そうすればなんの問題もない。


「いつか、この道を先輩と一緒に歩くッスよ……」



夕焼けの下、ただ立ち尽くしていた少女は、

踏み出すための決意を固めるのであった。






***********

























































































「やば、あいつこんなイケメンになってるじゃん……前はブスって言っちゃったけど、今度はこいつにしよ〜」



ヒロイン達は知らなかった。

大切な人に近づく、不穏な影のことを……

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