白鳥さんの恋愛相談part3

「それではこちらも準備があるので今日はこれくらいにして日曜日の午前八時にこの教室で待ち合わせでもよろしいでしょうか?」

「はい・・・・・・」

 白鳥が泣き止むころには陽が沈んでおり弥生が点けた蛍光灯の灯りがやけに眩しく感じる。

「それともう一つ」

「はい、まだ何か?」

 白鳥から離れて先程まで座っていた席のフックに掛けていた鞄と麻袋を持ちながら思い出したように口にした。

「水品さんの大学と学部を教えていただいてもよろしいでしょうか?」

 白鳥から聞けることも聞いた弥生は泣いて目の下を腫らした白鳥よりも早く廊下に出て

「それでは約束通り、白鳥さんと水品さんの仲を元通りにするために尽力しますので報酬は忘れずに」

 と言葉を残して白鳥を教室に残して先に帰ってしまった。

「変な人――でも、何故だか気分は良いのよね」

 さっきまで相手の顔も名前も知らない白鳥にとっては怖くもあり不安でもある筈なのに何故だか弥生に相談すると心が軽くなったようでその上弥生から宣言された水品との仲を元通りにするという言葉を聞いた時の安心感は心地が良かったのを思い出しながら白鳥もまた弥生を信じ、その上で自分なりにできる事をやっておこうと思うのであった。


「随分と遅いお帰りですね」

「別に待たなくてもいいのに」

 靴を履き替えて正門に近づくと共に一人の女性が門に寄りかかって待っているのが見て取れた。

「それじゃあ帰りましょうか弥生さん」

「そうだね、音色ちゃん」

 言葉を介してから二人並んで帰路を歩いて行く。

 弥生を振った本人であること音色ではあるが、水曜日にだけいつもこうして弥生の帰宅を待ち、どんなことを相談されたのかなどを聞いている。

「今回の相談はどうでしたか?」

「優しい相談だよ、ただ私の見解が的外れだったら少々厄介な相談になるのは確かだね」

「弥生さんの見解が外れる事なんてあるんですか?」

「あるね、音色ちゃんへの告白がそうであったように、勿論今でも好きだよ」

「弥生さんは重すぎます。今はお断りします」

「今はか――」

「今はです」

 告白を失敗したからと言って二人の仲が悪くなることは無かった。弥生に起きた心境の変化によってなのかは判別しづらいが告白前よりも仲が良くなったまである。

 自虐ネタの様に自身の音色への好意を示しながらも音色は軽くあしらい微笑みそれっぽい事を口にするだけ。だがそれでも弥生は良かった。

 未だ女性の心を捉え切れていない弥生は今のままではまだ音色に釣り合わないと感じているからでもあるからだ。

「それじゃあまた明日」

「はい、また明日」

 音色と会話をしているうちに自宅に着いた弥生は最後にそう言ってから音色と別れた。

「ただいま~~ぶっはぁ!」

 ドアを開けて数秒後、まるでロケット花火が腹部に目掛けて発射した様に素早く紗奈が弥生に向かって発射され、見事命中し弥生に張り付いて離れようとしなかった。

「うわあいやよち~!ご飯にする。お風呂にする。それともする?」

「なんだその新婚漫画は!アネキチ重い、思いも重すぎるし、なにより頬をスリスリするな~」

 いつまで経っても自分の弟を溺愛する紗奈に呆れながらも強引に離そうとはしない優しい弥生なのであった。

「弥生お帰りなさいって紗奈~弥生を虐めないの!」

「ただいま母さん」

 リビングから出てきた弥生の母である心枝 芽衣が姉の醜態を見て呆れながらそう口にした。

「だってこんなにも愛おしいのだ!ママもそう思うじゃろ~」

「それはまあそうだけど、もうそろそろ離れなさい、夕飯の準備まだなんだから手伝ってよね。それと弥生は早く着替えなさい、それか先にお風呂入ってきなさい」

「ならお風呂入ろうかな」

「なら私はフグッ!」

「さあて、行きましょうか!」

 何か弥生への危機感を感じ取った芽衣は動物を捕まえるように紗奈の首を鷲掴みしながら弥生から離してリビングへ戻っていった。

「やはや、気持ちいい~」

 弥生は一度自室に向かい、制服を脱いでから薄いメイクを落としてお風呂場に向かい、一番風呂を頂いた。

「ぐへへへ、お背中流しや――やめてママ!これ以上私の弟愛いのちを奪わないで!」

「お前は何べん言ったら言う事を聞くんだ!弥生の風呂に勝手に入ろうとするな!」

 何やらお風呂の外が騒がしいが何も聞かなかったことにしてゆっくり浸かる事に。

「それにしても今回の相談は今まで以上に甘いよな~」

 白鳥の相談をふと思い出しながら独り言つ。

 弥生が受けてきた相談の数々にも恋愛相談は多かったがそのほとんどが彼氏の愚痴を聞いたり彼女の愚痴を聞いたりと自身ではなく相手の方に避難があるのだという一方的な言い分が多かった。

 であるからして今回のは本当に意外だった。弥生のよみがあっていればこれは純粋な他者への気を遣って起きた甘ったるい相談だからだ。

「こんな終盤のラブコメのすれ違いみたいな恋愛も世の中にはあるんだな~」

 なんて傍観者のような言葉を口ずさみながらこれからどうするかをお風呂でのぼせるまで頭の中で練り上げていった。

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