白鳥さんの恋愛相談part2

「相談の紙に書いたように私には一つ歳が上の彼氏が居るんです」

「あぁ、書いてあったね。水品さんだっけ」

「そうです。水品君、最初のころは相思相愛みたいな感じで私も彼も楽しい日々を送っていたと思うんです・・・・・・けど――」

「けど、最近になって大学が忙しいといって会う機会が減り続け、今では電話越しでの会話しかないと・・・・・・」

 見えてもいない白鳥の顔をじっくりと観察するように麻袋を被った者は相槌を打ち、言葉を繋げて状況の把握に至る。

「白鳥さんの方で水品さんにこれはやり過ぎちゃったなとかこれはいけなかったかもなとかそう言った感じの事をした覚えはあるかな?」

 麻袋を被った者の問いに対して食い気味になる様に白鳥は

「そんな事ないです!私はいつも彼に気を掛けていますし、できるだけ彼の意思を尊重しているつもりです・・・・・・だから今の状況が良く分からないんです・・・・・・もしかしたらそれが駄目だったのかもしれないと思う時もあるんです。けど、我がまま言っちゃったら今までの関係が壊れそうで踏み出せないんですよ・・・・・・」

 言葉を吐くと共に自身の行いを改めて思い起こしてどこが駄目だったのかを自分で探る様になっていた。

「・・・・・・なるほどね、なら水品さんの方に問題があるのかな?何か変わった事はあったかな?」

「特に何もないですよ、会う機会が減ったのも緩やかでそれこそ別れる前触れみたいに少しづつ距離を置かれている感じに私は思いましたが水品君のSNS見ても全然いつも通りだったし、何でこうなったのか本当に良く分からないんですよ・・・・・・」

「・・・・・・」

 今まで隣で笑ってくれていた大事な人が緩やかに手元から離れていく孤独感に打ちひしがれて今にも泣きだしそうな声で答える白鳥を尻目に麻袋を被った者は次に何を尋ねるでもなく数分熟考してから口を開いた。

「それで?」

「はい?」

「私に相談してみて何かわかった事はあったかな?」

 まるで何も無かったかのようにそう言った。

「分かった事って・・・・・・水品君との距離感とかどれだけ私が彼に気を使って今まで付き合ってきたぐらいしか分からないですよ」

「そっか、何となく分かってるんだ。ならこれで相談は終わりだね」

 麻袋を被った者はそう口にしてから席から立ち上がった。

「これで終わりなんですか?」

 助ける訳でもなくただ相談を聞いていただけのこの無駄に近い時間で終わりなのかと白鳥は思い、そう口にする。

「私は相談を聞くだけだからね、それに大体の人はここで大体解決しているんだよ」

「それってどういう――」

「大体の原因は二つ。自分で自覚していない事と他者が自覚していない事だ。私は幾多の相談を受けてきてほぼその全部がその二つだった。つまり言葉にしないのが原因。うちに閉じ込めていつの間にか忘れた気になっているんだよ。だからこうして私が少し尋ねて聞き手に回って白鳥さんに自覚させるんだ」

「自覚させるって――」

「自分の過ちだね、白鳥さんは自分で口にしてその上で自分の悪い処を自覚したじゃないか」

「私の態度が悪かったって言うの・・・・・・」

 麻袋を被った者の言葉を聞き、先程自身が口にした水品に対しての付き合い方での慎重になっていた自分が悪いのだとそう突きつけられたようでそう聞き返す。

「それが原因かもしれないのは確かだね。ちょっと尋ねるけど水品さんて優しいでしょ、白鳥さんに対していつも気に掛けているんじゃないかな?」

「確かに優しいわよ、何でその事を?」

 やっぱりだといった風にため息をつきながら吐く。

「君らは慎重が過ぎるんだよ・・・・・・」

「どういう事なの?」

 本当に分からないといった感じで尋ねる白鳥に呆れて

「ここからは依頼料が発生するよ、私は助言するつもりなんてさらさらないんだ。相談を聞くだけが本文だ。今回は鈍感な白鳥さんの為に少し口を出し過ぎたけどここまでだ。君は自分で考える事をした方が良い、世の中誰もが助けてくれるなんて思いあがるだけで無駄なんだから」

「そんな言い方ってないでしょ・・・・・・」

 精一杯考えている。考えたうえで分からないのだと言う思いが言葉としてそう白鳥の口から吐かれた。

「それで?」

「え?」

「だから、どうするのかって聞いてるんだ。もう面倒くさくなってきた。今回の依頼料はおまけしてやる。それともここから自分で答えを導き出してみるか?」

 意外にも麻袋を被った者は離すように話していたのに白鳥に手を差し伸べたのだ。

 世の中誰もが助けてくれるなんて思いあがるだけ無駄だと言ったその口から、無駄だがそれでも少しは助けてくれる人が居るのだと体現しているように。

 最近は勉強も手つかずの状況で自身がこれからどうしていけばも分からなくなっていた白鳥は藁にも縋る様な枯れそうな言葉で目の前の麻袋を被った者の手に縋りついた。

「教えてほしい・・・・・・どうしたらいいの・・・・・・」

「よっしゃ!なら助けてやる!」

 気合いを引き締めたのか麻袋を被った者はそう口にしてからスイッチが入ったように気分を高めてそして頭にかぶっていた麻袋を脱いだ。

「え?」

 その顔は中性的ではあるが男性的な無邪気な笑顔と女性的な手入れの整った長い髪に可憐な顔立ちの城下町を徘徊する世間知らずのお姫様の様な容姿をした者だった。

「ここからはお前のプライバシーに抉るように突っ込ませてもらうからこっちもプライバシーなんて剥ぎ取らせてもらうね、私、二年の心枝 弥生です。いや~見ただけで分かりますが初恋に悩む少女みたいですね先輩。まあそれでも私なりに今の水品さんとの関係を前よりも良くできるように頑張るんでよろしくお願いします!」

 何もかもが弥生の前では対等であるという感じに思える程の接し方に麻袋を被っていた時よりも人懐っこい感じの弥生の変化に困惑しながらも何故か白鳥はこぼれ落ちていく涙が止まらず俯いてしまった。

「前を向いてください、水品さんがどうしようもなく好きなんでしょ?なら俯いているよりも前を向いてその綺麗な顔を彼に見せてあげてください。さあその為に私が付いていますから――」

 不遇な灰かぶり姫に手を差し伸べる優しい魔女の様に弥生は白鳥に近づき俯いた彼女の目に映る場所で綺麗な手を差し伸べた。

「怖かったんです。これで終わるなんて――」

「はい」

 相談者に寄り添うように

「どうしようもなかったんです。もしかしたら彼が他の女性を好きになったんじゃないかって」

「違いますよ」

 相談者を正すように

「何でそう言い切れるの?」

「だって、貴方を好きでいるのか彼だって同じでしょう、距離をとったのもある理由があるんですよきっと」

 相談者が前を向けるように

「・・・・・・信じても良いの?」

「任せてください――」

 相談者が明日を笑顔で過ごせるように

「なんてったって相談部ですから!」

 他者を思うその気持の上で弥生は誰よりも真剣に当事者よりも自信を持って言葉を口にした。

「ありがとう・・・・・・」

 感謝と心配が一時的にでも晴れて安堵し泣きじゃくる白鳥の傍で弥生はただ泣き終わるのをそっと待ち続けた。

 

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