弥生さんの日常part1
心枝 弥生の朝は不本意ながら早い。
「おっはよ!!やよち~~!!」
「グフッ!アネキチ、重い・・・・・・」
午前六時半になると何時ものように姉である
「だからアネキチとは何だね、まるで姉である私がキチガイみたいじゃないか!」
「その通りだからアネキチなんだよ」
「何ですと~、そんな無愛想なやよちにはお姉さんから特別に――」
「あ、良いです。姉様どいてください、服を着替えたいので」
何をされるかは大体わかっている。どうせろくでもない事なんだ。
弥生は身の危険を感じてベッドから抜け出して紗奈から距離をとりながら冷静に対処する。
「つれないですね~、それにまた女性ものの制服ですか?もう高校二年になったのだから男性制服を着る気にはならないのですか?」
「生憎と服に付いては前も言ったように私が彼女に告白するまではこのままでいると共に女性という立場をしないとならないという二重の意味を含んでいる為却下です」
「つれないですね~でも私的には制服を着ている時のやよちもなかなか旨い――じゃなくて可愛いので良いですけどね!」
「意味合い的には全く違うのにその言葉の中心にあるのが何かわかる言葉を私に浴びせるとは流石アネキチであり生徒会長」
「ふへへへへ、愛しい妹系弟に褒められちまったぜ、今日の役員会議も無双できそうだ」
涎をダラダラと垂らしながら照れている紗奈は我が県立川城高校の生徒会長である。
何故こんなメタモンみたいな良く分からない紗奈が生徒会長になれたのか弥生の中では一番の疑問であるが、巷では紗奈の事を成績優秀、将来有望の美人生徒会長なんてもてはやしている輩が居るらしい。
何も間違ってはいないのだが
「重度のブラコンアネキチめ」
「ブラコンで結構!世の中の圧政にはもう飽き飽きなのだ!自信を偽らずただ一人私を理解してくれる弟さへ居れば私は世界すら敵に回してやろう!」
「堂々と何痛いこと言ってんだ・・・・・・早く出ていけ!」
「え~~、何でさ!まだこの弟調査で作り上げた論文が―――」
壮大な事をつらつらと喋り続ける紗奈を無理やり外に出してから鍵を閉めて身支度を済まして部屋を出る。
「お、決まってるねえ~姉ながら嫉妬しちまうぜ!」
先程の事など無かったかのようにケロッとしながら二つの朝食をテーブルに置く。
「あれ?母さんは?」
「もう出ていったよ」
「そっか」
弥生の父と母は少々特殊な事情と職に就いており再婚した父の方は宅配業者で母は雑誌の編集長といった感じで家に帰って来ても遅くだったりするので今朝の様に二人での食事になる事など日常茶飯事である。
「あ、蝶ネクタイ曲がってる、折角綺麗におめかししてるんだからしっかりしなさいな」
「あ、ありがとう」
食パンを齧りながらニュース番組を見ていた弥生の蝶ネクタイを紗奈が直しながら注意する。
川城高校は服装や容姿の校則はなどはある程度緩い方で指定の制服を着ていれば顔のメイクなどに関しては不問となっている。
勉強差へできていれば他は気にしないルーズな学校ではあるが男性が女性制服を着る事は何故か禁止されたままで川城高校のルールは今時と昔の名残がごちゃ混ぜになってる感じになってしまっている。
食事を終えて一通り登校の準備を済ませていつも通り弥生は紗奈と一緒に学校へ向かう。
学校から家はそう遠くない為歩きで登校している。
他愛のない話をしながら向かい、学校に着くと三年校舎と一二年校舎で分かれている為校門を入ってから別れる。
「おっす妹子!アネキチもおっす!」
「アネキチ言うな!ブラキチにしろ~!」
「なんか下品なので却下~、さあ行きましょうアネキチ、妹子もじゃあね~」
「アネキチをよろしくお願いいたします」
紗奈と同じクラスで生徒会会計の
学校内での弥生の性別は女であるため、いつものように家に居る時よりも声を高くして接して紗奈を見送る。
「やはや、いつも仲が良いですなあの二人。おっす弥生」
「おっす大翔。いつも通りだな」
次に声を掛けてきたのは小学生の時からの幼馴染の
宮下は弥生がこうなった時の事を知っている為男であると知っているが幼馴染のよしみとして黙っていてもらっている。
弥生と宮下はいつも通り下らない話をしてゲラゲラと笑いながら二年D組に向かう。
「うぇえい弥生ちゃん!」
「うぇえい!巴瑞季ちゃん」
クラス前の廊下で女子グループと談笑していた
巴瑞季とは高校からの友人で弥生の事を女性だと思っている為気兼ねなく接してくる。
騙しているようで悪い気がするが男子にも同じ様に接してくるのでまあいいかなとも思っている。
「大翔もうぇえい!」
「うぇえい!ってこれはやってるのか?」
「いや全然。何となく」
「急に真顔になるなよ・・・・・・そうだ昨日のテレビ観た?あの何だっけ!犬のやつ!」
「あぁ、百二匹ワンちゃんね」
「そうそれ!可愛かったよね~」
「ね~」
弥生はその話題の流れに乗ったまま女子グループの中で談笑をし、大翔は察したのか先にクラスに入って男友達のグループで談笑していた。
「おはよう弥生~」
「おはよう茜ちゃんてうぉお!」
寝ぼけまなこをこすりながら欠伸をして弥生に寄ってきたと思えば身体全体の力を抜いてだらりと寄りかかってきた中学時代からの友人の
「今日はどうしたんだい?いつもよりも眠そうじゃん」
「ちょっとはしゃぎすぎちゃってねえ~」
「いつもの彼氏とゲームですか?」
「そうなんよ~、巴瑞季はいつもながら元気そうだね~」
「元気過ぎて今からグラウンド三周はできるよ!」
「意外と現実的・・・・・・」
茜を抱えながら弥生と巴瑞季は女子グループと別れてクラスの中へ入り、いつも通り茜の席の前に行くと大翔と大翔の中学からの部活仲間であり友人である
「茜さんくたくたですね、皆さんおはようございます」
無駄に礼儀正しい感じで接する為どこか素っ気ないがこれはこれで味がある南雲である。
「南雲うぇえいでございます!」
「うぇえい!です巴瑞季さん」
「なんだその液体のりで張り付けた様なございますは」
「なかなか難しい例えをするねえ弥生ちゃん~流石定期テストいつも学年上位~」
「目の前に学年二位が眠っているとその言葉も喜んでいいのか迷うよ・・・・・・」
定期テストでいつも二位を取りながら彼氏持ちの青春を謳歌している茜であるが一位を取った事は一度としてなかった。
「まあ、私的にはあの子に勝ててないからまだまだだね~」
むにゃむにゃと寝言の様に口からこぼれ落ちるその言葉と共に教室が騒めく。
「噂の本人のお出ましだよ」
定期テスト学年一位をずっとセーブしている才色兼備の和の乙女。
小学生の頃に弥生をふったその人である。
今は友人として接してくれていて弥生の事についても大翔と同じ様に黙っていてくれている。
「うぇえい!音色ちゃん」
「おはようございます巴瑞季さん。うぇえい」
礼儀正しいその様子は気高く、長く綺麗に手入れがされている髪を靡かせるその姿はまさしく和のお姫様そのものである。
「それに皆さんもおはようございます。今日は何を話していらっしゃったのですか?」
「うん?あぁ、青春を謳歌している茜ちゃんをどうすれば一位に出来るかという作戦を考えていたんだよ」
「それは良いですね!彼氏もちの学年一位。凄く素敵だと思いますよ」
「グサッ!」
「あ、茜ちゃんの口からダメージ音が」
「べ、別に~~一位取れなくても私の優位性は変わらないのだから別にどうって事でも別に~」
「別に星人しっかりしろ~お前はよくやってるよ~」
「弥生~~‼あのお姫様が虐めてくるんだ!倒してくれ!」
泣きついてきた茜の頭をよしよしと撫でてあやしながら現実を突きつける。
「それは私にも無理だ」
「うわああ!現実なんてクソゲーだあ!」
いつも通りの五人で下らない話で笑いながら朝のホームルームが始まるまで談笑していた。
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