女装男子、相談部の弥生さんは恋している!

柊木 渚

弥生さんはどこかおかしい

一年前。

 入学試験 個人面接にて

心枝 こころえ弥生やよいさん。入ってきてください」

「はい!」

 いつも通り、何もかもが平常だ。これなら大丈夫。

 面接官に促されてから椅子に座り三人の面接官の様子を伺う。

 上出来だ!

「・・・・・・貴方が心枝 弥生さんですか?」

「はいそうですけど・・・・・・」

「ま、まあ、始めましょうか・・・・・・」

 緊張はしていない、これなら練習通りにいける。

「それじゃあまず自己紹介を――」

「受験番号百二十五番。心枝こころえ 弥生やよいです」

「・・・・・・ではまず心枝さん」

「はい!」

「その格好は何ですか?」

「え?」

 見る限り普通の服装だ。どこにも問題は無い筈だが、というか左の席に座っている女性、私を見て何故か笑いを堪えてるし・・・・・・

「どこか問題があったでしょうか?」

「ぶ、ぶはぁあ!、気付いてねえのかよ!やべえこいつ面白すぎる!なんだよこいつ!二つの意味で反則だろ!」

 ゲラゲラと堪えきれずに女性は腹を抱えて笑い始めた。

「ちょ、理事長!」

「理事長?!」

 なんでそんな偉い人がここに?!

「いや、だってこいつ!ぶっはああ!腹痛い!」

 隠そうともせず理事長は思うがままに弥生を見てはゲラゲラとこみ上げてくる笑いを室内に響かせていた。

「なんですかいったい!どこか悪いところがあるなら言ったらいいでしょ!」

 理事長の対応に腹を立てた弥生がそう切り出すと理事長から聞こえてきた笑い声が止んで真剣な表情で弥生に対して口にした。

「いや君、男性なのに女性の制服着てくるんじゃないよ」

「あ、はい・・・・・・ですよね~~」

 どうやらこれがまずかったらしい、今着ている制服は中学の頃に着ていた制服で女性ものの服。

 そして心枝こころえ 弥生やよいは紛れもない男性である。

 

一年後。

「あの日から一年が経つな弥生」

 弥生は理事長に呼び出されて理事長室に来ていた。

「そうですね、あの日から一年ですね」

 紙パックの牛乳を飲みながら理事長は弥生を見て、そんな理事長に似合わない感慨に耽るような言葉を言い、次の瞬間にはいつも通りの阿保面で牛乳を弥生に向けて吐き出しながら言う。

「ぶひゃあ!いやお前変わんな過ぎていつ見ても笑えるわ!女性でもないのに女性の制服着てるしその上めっちゃ可愛いし!」

「牛乳を私の顔面にぶちまけないでください、牛乳臭くなります」

 弥生はハンカチで牛乳まみれの顔を拭いてから呼ばれた経緯を理事長に尋ねると

「弥生を呼ぶ理由は一つだけって決まってるだろ、お前がその格好と性別を詐称する代わりに――」

「相談部を立ち上げて色々な生徒の相談役になれでしたっけ」

 一年前のあの日。弥生は面接後に理事長に呼び出されてとある条件下での入学を許可する事を提案された。


『新設校と言うのは問題がつきものでね、色々な生徒の不満が貯まりやすいんだ。そこでその面白い格好でこの高校に入ろうとしている君に提案だ。君をこの学校に入学させる代わりに少しだけこちらの頼みを聞いてくれないか?』

『何ですか?無茶なのは聞きませんよ』

『自分の立場を弁えていないその口の利き方、私は嫌いじゃないよ。そんで頼みと言うのは簡単でこの高校の生徒の相談役をかって出てほしいんだ』

『相談役ですか?』

『そう相談役。君は男性と女性の両意見を聴ける立場に居る。ならばその立場を利用して少しでもこの新設校をより良い方向へ導くための踏み台にさせてもらおうって事さ、そうだな、相談部ってのはどうだ?相談部を立ち上げてお前が部長で色々な生徒の相談役になる、悪い話じゃないだろう?』


 なんて話の末。弥生はその条件を呑んで現在に至る。

「実績は少しずつだが耳に入っているでしょう、聞くまでもない」

「うっひゃあ、弥生は本当に冷たいなぁ、でもまあ弥生の言う通り、噂は耳に入ってきているよ、やるじゃないか」

 相談部はこの一年の間で色々な生徒の噂の的になっていた。

「相談者は皆一応に解決し、なぜだか成績が上がる生徒まで出てる。今では学校七不思議の一つに数えられているようだね」

 理事長は手に持っている相談部に関する資料をペラペラと捲りながら口にする。

「成果をあげないと私はお払い箱なんだろ、なら選択肢はいつだって一つだけだ」

「そう、成果を上げないと君はここを去らなきゃいけない、成績は問題ないがそれ以外が問題でしかないからね。だけど仮にも弥生が制服を脱いでこの学校で生活をするというのなら話は別だよ」

「・・・・・・それは出来ません。これは私の決意ですから」

 弥生がキッパリとそう言うと、そうでなくちゃと言った顔で理事長は笑いながら弥生の横に座り直して肩を組んで

「その生真面目な恋が成就する事を私は願っているよ、この真面目馬鹿娘男め!」

「情報量がパンクしてるし私の頬を指でぐりぐりとしないでください、後牛乳臭い」

 この服装の理由、弥生にとっては難しい事で他者にとっては簡単な事。

 小学生の頃に幼馴染にフラれたショックで我を失っていた時にふとその答えに至ってしまったのがこの服装の始まり。

【そうだ。僕がフラれたのは女性側の考えを持ち合わせていなかったからなんだ。ならばいっそのこと女性側の視点に立ってみよう】

 生真面目にも独創的なその思いつきがきっかけで弥生は小学生の頃から女装を始め、今に至る。

 誰よりも純粋に、誰よりも奇抜な方法での一途な恋愛へのアプローチ。

 生真面目の心枝 弥生だからできたその馬鹿と天才の紙一重の様な行動が自身の高校生活をかき回す原因になることになるとはまだ知る由もなかった。

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