第5話 王国の秘密

 ノリスは不満そうな顔をしたが、ミラノが「余計なことをするな」と言う以上それに従うしかない。

 ミラノはそれにしてもと思う。

 それにしても、異界のモノを抑え込むほどの魔導とは。


「あなたの名前は?」と少年王は聞いた。

「お、俺はマルコです。君は?」

「僕? 僕はミラノ」


 ミラノは本当の名前を名乗ったが、目の前の少年は彼の正体に気づく様子もない。

 もしかしてと思い、


「マルコは、この剣の中にいるモノに気づいてないの?」と聞いた。

「剣の中にいるモノって何だ?」


 マルコ・デル・デソートは、異界のモノのことに気づいていないのだろうか。

 少年王は、剣を布の中から取り出して、蛞蝓なめくじのように蠢く薄っすらとした黒い影を指さした。

 晴天の日差しの下だというのに、はっきりと分かるその影は嫌悪感をもよおさせる。


「ああ、それか! なんか変な影があるなあとは思ったんだけど」

「マルコはこれを見て変な影ってくらいにしか思わないの?」

「うむ、だって親方の剣だし、俺の知らない魔導かなんかかと思ったんだけど」


 ミラノは、これを見て「なんか変な影」くらいにしか思わないマルコをやっぱり不可解だと感じた。


「でも、この剣に魔導をかけたのはマルコなんですよね?」

「そうだよ。ブシン・ルナ・フォウセンヒメとかいう女神がやれって言うから。

 あの女神、自分でやればいいのに、いつも人にやらせるんだ」

「フォウセンヒメが?」


 ミラノは顔色を変えた。


「あ、ああ、マルコってゾンダークの病院で白魔導を使った人?」


 少年王、ミラノはあの時、王宮からその様子を見ていたのである。もちろん、〔遠隔魔法〕を用いてである。


「『蒼き死の病』のことか? よく知ってるな。

 でも魔導を詠唱したのは俺じゃなくて、白梅っていう魔導書の精だよ」

「でも、それってマキナが許可したってことだよね」

「ああ、そういえば白梅さんがマンマなんとかがどうとか言ってたような気がするな」


 少年王はますます、マルコ・デル・デソートのことを不可解に感じた。

 ミラノから見てマルコは、黒魔導の力もあるようだし、魔導書の精も使いこなしている、さらに異界のモノを封じる力もある。

 そして、異界のモノを見て、特に嫌悪感を持った様子もない。

 どういうことだ? 不可解きわまりない。


「ところでマンマなんとかって何だ?」

「あ、ええと、ごめんなさい。マキナのことは聞かなかったことにしてください」


 少年王は思わず口に出してしまったが、Mマーマ.Mマリア.Mマキナは国家秘密ともいうべきものである。


「そうか、じゃあ、聞かなかったことにする」


 マルコはそう言って、ヒヒヒと笑った。

 何か企んでいそうな笑い方だが、特に彼に他意はない。

 本当に聞かなかったことにするつもりなだけである。


「ミラノ様、この者やはり何かおかしいですね」

「うむ」

「やはり、たっぷりとお仕置きをするべきかと、たっぷりと」

「いや、やめておけ、フォウセンヒメが関わっているようだから」

「女神様はいったい何を考えておられるのやら、

 あのときも、異界の神の糸を斬ってしまわれたし」


 宦官・ノリスは思案するように腕を組んだ。

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