第4話 子供のような

 マルコ・デル・デソートは貴族というものと話しをしたことがない。

 彼は、自分が何か目の前の『高貴な身分』であろう少年の気分を害してしまったのだろうか? と考えてみたが思い当たるふしはない。

 貴族というものは、やはり自分たちとは異なる世界の生き物なのだろうと思うばかりである。

 彼は、異世界のモノを見るような目でミラノを見た。


「言え、お前はいったい何者だ!」


 マルコは高圧的な物言いをするミラノにだんだん腹が立ってきた。

 マルコ・デル・デソートの体から禍々しいオーラが立ち上がった。


 ちなみにであるが、彼は黒魔導を得意としている。

 黒魔導というと邪悪なものをイメージする方も多いかもしれないが、この世界における黒魔導とはやや邪悪なものと考える者もいるが、基本的には攻撃系の魔導の総称程度の意味でしかない。

 であるので、彼はいま、禍々しいオーラを出しているがそれは黒魔導の使い手だからではない。

 単純に自分の感情が負の側に振れると、彼は禍々しいオーラを発してしまうのである。


「だいたいお前は何なんだよ、さっきから偉そうにしやがって!

 俺は貴族なんてもん、大嫌いなんだよ、お高くとまりやがって!」


 マルコは興奮して、そう言った。

 貧民窟の者は、普段から差別的な目で見られている。

 彼の中で鬱積した感情が爆発しそうになった。


 宦官・ノリスはマルコのその物言いに「むっ」と声を上げた。

 マルコの言葉はもちろん国王に対するものとして相応しくない。

 この場で斬り捨てられてもおかしくない程のものである。


 ミラノは動こうとするノリスを片手で制した。

 少年王は、愚ではない。

 ここで騒ぎを起こすことは自分にとって不利益にしかならないことをよく理解している。


「ごめんなさい」


 ミラノはまるで子供のような言い方でそう謝った。

 子供であることは確かなのではあるが。


 マルコは意外にも素直に謝るものだから、逆にどうして良いか分からなくなってしまった。

 子供相手に禍々しいオーラを発してしまったのが急に恥ずかしくなった。


「あ、あ、いや、いや……俺、俺、俺の方こそ、ごめんなさい」

「いえ、僕が悪いんです。

 この剣を預からせて頂きたいのですが、よろしいでしょうか。

 アラタさんに聞いた方が良いですか?」

「アラタ? どうだろ……その剣、親方の剣だし勝手に持って行っちゃダメだと思うけど……」


 ミラノは少し思案した後、マルコの言う通りに剣は置いていくことにした。


「よろしいのですか……それにしてもこの子、口の聞き方を教えてあげた方がよろしいかと、たっぷりとお仕置きをしてあげた方がよろしいかと……よろしいかと」


 ノリスは言うが、ミラノは「余計なことをするな」と言った。

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