第2話 養成所のヒヨコ

 マルコ・デル・デソートは立ち去ってしまったが、ミラノが目指している場所は冒険者養成所である。

 なので、立ち去るマルコを追いかける形になった。


 マルコが振り返るとミラノとノリスがついて来ているので、彼は「ひっ」と声を上げた。

 なぜついてくるのか? と不気味に思ったのであろう。

 どう見ても『高貴な身分』であるミラノがついて来るのだから、不気味に思うだろう。


 そうこうするうちに、彼らは冒険者養成所にたどり着いた。


「あ、あ、あの何かご用でしょうか……?」


 マルコは恐る恐るといった感じでミラノに聞いた。


「お前はここの職員か?」

「職員ていうか、職員なのかな、臨時の……ここの親方が急に亡くなったので、ちょっと手伝っていますです……」

「そうか」


 冒険者養成所は昼休みの時間であったが、そろそろ昼休みも終わろうとしている。


 この辺りの地域の子供たちは、ほぼほとんど冒険者養成所にて冒険者になる訓練を受ける。

 マルコも数年前までこの養成所にて冒険者になる修行をしていた。

 マルコ・デル・デソートはこう見えて、いやどう見えているか分からないが、優秀なのである。

 それでいま、彼はこの養成所の子供たちに魔導術を教えているのだ。


「あ、あの、そろそろ昼休みも終わりなのです……が……?」


 子供たちがマルコの回りに集まり始めていた。

 これから、午後の授業である。


「ああ、邪魔をしてすまない。僕のことは気にしないで」とミラノは言った。


 マルコは子供たちに〔ファイア・ストーム〕という魔道術を教え始める。

 火の魔導である。

 ごく初歩の魔道術であるが、黒魔導の基本とされる技だ。

 子供たちに、修練としてごく弱い〔ファイア・ストーム〕を放出させ続けさせる。

 一定の出力の魔導発動を維持し続けることが意外と難しいのだ。


 子供たちは、長くても数分しか〔ファイア・ストーム〕を維持できずにしているのを見て、ミラノは微笑ましく思った。

 この辺りの地域の『掃討作戦』を実行した彼が、この辺りの地域の子供たちを微笑ましく思っている。

 自分がこの地域を『掃討』しようとしたというのに。

 それは、ミラノという少年王の二面性であろうか。

 それともまだ10歳の少年の無邪気さであろうか、精神的に未成熟だということだろうか。

 

 そこへ、ぴよという声を発して現れたものがあった。

 ヒヨコの姿をしたマーマ・マリアである。

 ミラノの回りをぴよぴよ言いながら飛び回っていた。


 マルコは、マーマ・マリアのことを親方の召喚獣だとしか思っていない。


「あ、こら、ヒヨコ! その方はたぶん貴族だぞ、ぴよぴよ飛び回るな!」


 そう言って、追い払おうとした。


「ああ、良いのです。僕はこのヒヨコ殿に会いにきたのです」


 ちょっと部屋を借りますよ。と言って、ミラノはマーマ・マリアと共に冒険者養成所の屋内へと入っていった。

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