第19話 廃墟の王

 「おのれ草の分際で!!」


 ナユタは完全に我を忘れている。「草の分際で」などと怒っているが、べつだん魔導草たちは何も悪くないのである。

 青く発光し始めたナユタの体はますます光を強めている。

 じき、魔導臨界を起こしてしまいかねない。


「おやめくださいませ。どうか、おさまりくださいませ」


 大きな花を咲かせた魔導草がおろおろしている。

 ナユタが魔導臨界を起こせば、この世界は滅んでしまうだろう。

 いや、どのみち滅びゆく世界なのではあるが。とはいえ、彼ら魔導草たちは、もう何百年も『王の帰還』を待ち続けているのである。


 ――その時。

 何者かがこの廃墟となった王城へとやって来たのである。

 魔導草たちがざわめきたった。


「王よ!」

「おお、王よ!」

「王がご帰還あそばされた!」


 魔導草たちが王と呼んだ者は、トラ柄の猫の姿をしていた。

 ドラゴである。

 ドラゴは、生い茂る魔導草たちの間をジャンプしてナユタの元へと向かった。


「ナユタの旦那、我に返るのだ! 正気に戻れ!」

「トラコか! これはお前の仕業か!」

「トラコじゃなくて、ドラゴな。それからオレの仕業じゃないから」


 大きな花を咲かせた魔導草は、ドラゴを見て歓喜した。


「おお、我が王よ、お待ちしておりました」

「残念だが、オレはこの世界の王ではない」

「いえ、あなた様は王様でございます。まさに王様でございます」


 ナユタは相変わらず青く発光したまま、ドラゴを不審そうに見る。


「お前は草の王なのか?」

「ナユタの旦那よう、草の王なわけないだろ」

「じゃあなんで、魔導草たちはお前を王だと言っているのだ?」


 ドラゴは少しめんどくさそうな顔をした。


「かつて、むかしむかしの大昔の話しだ。この世界に王になるべき何人かの人間がいたわけさ」

「それがどうしたのだ? お前は人間ではないだろ?」

「そうさ、俺は魔導書の精だ。

 お前の先祖であるアル殿によって創られた……ただな……」

「ただ何だ?」


 ドラゴはさらにめんどくさそうな顔をした。それは悲し気な顔にも見えた。


「アル殿は神にでもなったつもりだったのだろうよ」

「どういうことだ」

「オレは、オレというかオレの一部は『この世界の王になるべきだった人間』のうちの一人のコピーなんだ」

「言ってることの意味がまるで分からん」

「ああ、ナユタの旦那は分からんでいいのだ。

 助けに来るのが遅くなって悪かったな。

 ナユタの旦那よう、自分を抑えるのだ。

 臨界に達したら、自分の体が消えちまうぞ!」


 ドラゴが心配げにナユタを見た。

 ナユタは今更のように自分が青く発光していることに気づいた。


「これは何だ? どうして俺は青く光っておるのだ」

「旦那の体の中で『魔導の力』が暴れまくっちまってるんだよ。

 一人で怖かったんだろ?

 オレが一緒にいてやるから安心しろよ」

「俺が一人で怖いなんてことねえよ」


 そう言いながらも、ナユタはドラゴを見て安心したのだろう。

 彼の体の中の『魔導の力』がおさまりつつあった。


「元の世界に戻るぞ」とドラゴが言った。


 魔導草たちが「王よ!」とざわめきたったが、ドラゴはそれを無視した。

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