第6話 養成所の先輩冒険者

 アラタは午後になると受付係の仕事に戻るように言われて、そしたら教育係のスライムさんが受付をやっていて、アラタをみるなり目を三角にして怒ったのであった。


「あ・な・た・は! あ・な・た・は受付係ですっス!」

「は、はい。わかっています」

「冒険者さんを黒焦げにしたり、モンスターと戦ったりするのは、あ・な・た・の仕事ではないですっス!」


 その後も教育係のスライムさんは、プリプリいろいろ怒っていて、冒険者のランクの見方も分からないのかとか、昨日あれほど説明したのにとか、言っていた。

 はい。おっしゃる通りです。全部、自分が悪いのですとアラタは思った。


 クロノ鴉が襲ってきた後のことはアラタの記憶はあやふやであった。

 翼を広げて矢を放った......アラタの命を狙ったものだった......

 今までは異界の生き物に襲われるなんてことはなかったのに。


 アラタがクロノ鴉の襲撃について考えこんでいると、誰かに話しかけられた。


「お前は!......お前は!......お前は!」


 突然、お前はと3回言われてびっくりしたのだが、目の前に人がいた。

 ボサボサの髪に、腹の出た小太りの男子であった。

 その容姿は、お世辞にもかっこいいとは言えない。


「お前、アラタだな?」

「ええと、そうですが、どちら様でしょうか?」

「ど、どちら様だ? お前の先輩だよ! 先輩! 見たことない? 俺のこと」


 先輩? あ、そういえば養成所のとき、この人見たことあるかも。

 しかし、アラタはであったから、養成所の他の人たちのことよく知らないのであった。


「養成所の先輩ですね。ごめんなさい。僕、ほとんど一人で過ごしていたから......」

「いいご身分だよな、お前は。何がほとんど一人だっただ。親方につきっきりで稽古をつけてもらっていたくせに!」

「そ、そうなんですが、それは僕が出来が悪かったからで......」


 親方がアラタにつきっきりであったものだから、えこひいきだと思う者も多かったのだ。


「出来が悪かったのは俺も同じだ。まあ、それは良いとしよう。俺は他のやつらと違ってえこひいきなどどうでもいいのだ。

 で、お前の後ろにいらっしゃる美女の方はどちら様だ?」


 そういえばこの人、アラタの後ろを見てなんかポワーンてして、それから慌てて目をそらした。


 美女? 後ろを振り返ると女神様がいた。


「あの......いつの間に現れたんですか?」

「(今さっきだ)」

「この人、女神様のこと見えるみたいで、美女とか言ってるんですけど......」

「(俺はまさに美女だ。というより俺のことを美女と思うのが正常だし、良い心掛けだ)」


 ブシン・ルナ・フォウセンヒメは、自信満々にそう言った。

 アラタはそれよりと思い、クロノ鴉について女神に聞いてみた。


「女神様、クロノ鴉って知っていますか?」

「知っておるぞ。穢れた世界の生き物だ。関わらぬ方が良い」

「穢れた世界? なんですかそれ」

「よくは知らぬ」

「ええ? 神様なのに知らないの?」

「知らなきゃいけないのか?」


 養成所の先輩がイライラとした様子でこちらを見ていた。


「その美女の方はどちら様だ? と聞いているのだ」

「あ、この方は女神様で人間じゃないですから......」

「女神様とか人間とか、関係ある? こんな美女でらっしゃる方がそばにいらっっしゃるんだよ?......しかも!......しかも!」


 しかも......何だろう? ああそうだ、この女神様、スケスケの服を着てるんだった。


「あの、女神様、人間の前に出てくるときはもうちょっと露出度の低い服を着た方が良いかと思いますが......」

「(『水のはごろも』はかなり防御力が高いのだ!)」

「そ、そうですか、でも女神様ならそんなに防御力の高いものを装備してなくても大丈夫ですよね?」

「(うむ、その通りだ。ならば、お前の望み通り着替えてこよう)」


 女神様はどこかへ消え、『旅人の服』を着て戻ってきた。いきなり防御力最低ランクの『旅人の服』をチョイスするのも極端な気がするのだが......

 いずれにせよ女神様の豊満ボディで『旅人の服』ははち切れそうになっていて、そして胸がすごくでかい......かえって胸が強調されているようにも思えた。

 目の前にいる養成所の先輩の人は、ますます目をハート型にして完全に女神様に悩殺されてるみたいだし......


「ところで、先輩は何しにきたんですか?」

「え? は? 俺、このギルドの準会員なんだけど!」

「ああ、お仕事の紹介を受けにいらっしゃったのですね......」


 そして、アラタは教育係のスライムさんがもう一度教えてくれた冒険者のランクを見るコマンド魔法だとかいう〔ステータス〕を唱えた。

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