第15話 分裂した国

シャロンは城の内部を歩き続けた。ある場所へ向かおうとしていた。

それは、妖術師を雇っている場所かつポータルを開く際に用いられる、「十式の間」である。


すると奥から声が聞こえてきた。


「こっこれはシャロン様!」


「あっ久しぶり!アデナ!」


アデナと呼ばれた彼女は敬礼した。


「おかえりなさいませ。王女様。アグノさんが必ず連れ戻すと約束されていたので私は帰ってくると信じてました。」


「アグノは見かけてない?」


「まだ私は見ていませんね。そのうち帰ってくると思いますし、十式の間に向かってはいかがでしょうか?」


「言われなくても!丁度向かってたところよ!」


「失礼しました。どうぞ。行ってらっしゃいませ。」


シャロンは十式の間へ向かった。


アデナ。彼女はシャロンが幼い頃から世話をしていたメイド長であり、元人間だが、竜人希望したためにシャロンに竜人にさせてもらっている。


間もなく十式の間に着いた。


「ここに居るはずだけど、アグノもアロンも」


扉を開いた。重い音が床にした。


「アグノ!いる?アロンも!」


「シャロン様!おかえりなさいませ。ここでずっと待ってましたよ。この部屋に現れると予想していたのですが外れましたね。やはりポータルの開くのはともかく移動される先を操作するのは難しいものですな。思いもよらない場所に飛ばしてしまう。」


そう応えたのはザハトだった。彼はザクトの弟である。


「兄上は?兄上は連れて帰ってこられましたか?」


「残念ながら行方不明よ。捜していたけれど見つけられなかった。向こうの世界に飛ばしてもらってからというもの1度も会わずじまいだったわ。」


「シャロン様をたぶらかし、かの世界に実質的に拉致したようなものですよ。兄上にはきっちりと罰を下す必要がある。必ず見つけないと。そして見つけてあげたい。何か手はありませんか?」


「捜索部隊を派遣する可能性はあるけどまだ未定だわ。」


「アグノはどちらへ行きましたか?」


そう聞いてきたのはアロンだった。


「アグノとはまだ会ってないわ。まだ着いてないのかもね。こちらにも現れなかったのね。」


「ええ。こちらにも姿を現しませんでした。」


その頃、アグノは一服した後、城の中へ入っていった。


【何するの?】


「見せたいものがある。」


そう言って彼は城内に設けられた戦士長の自室まで歩いていった。


部屋に入るなり、地図を取り出して竜子にも見せた。


【えっ地図?てか私の世界と似ているような似てないような。】


「第9の世界と第792の世界は元々の根底が共通のものだ。海岸線はほとんど変わっていない。凡そ君らが暮らしていた世界とこの世界は500年ほど開きがあるから国境線は変わっているがな。この世界の現状を君には知ってもらうことから始めたい。」


【私だけ?シャロンさん探さないの?ほかのみんなも】


「そもそもこの世界にたどり着いてるかも分からないし、少しでも物事を先に進めたい。だからまず君にこの世界の歴史と地理を簡単に教える。」


【まあいいけど。】


「まず、この国は60年前まで〔日本〕という1つの国だった。君たちの世界でもそうだっただろう?」


【うん。】


「だが、この世界と君たちの世界で違うのはまず第1に人間に匹敵する知的生命体が11種類存在することだ。悪魔族、獣人族、竜族、竜人族、炎人族、半霊族、地霊族、アンデッド族、海人族、虚神族、吸血族、そして人類の12種類の種族がこの世界でそれぞれのテリトリーを確立していて、それが〔国〕になっている。11種類の種族は400年前に突如として現れてきたものではなく、順序立てて現れてきた。最初は人類と戦争状態にもなったがやがて講和会議が開かれ、平和を取り戻すことに成功した。ただし、国際全種族連盟に全国家が強制的に参加し、2年に1度開かれるゴッデスファイトに強制的に参加させられることになっている。国際全種族連盟の盟主はアメリカ連立国家群である。かの国は人類と竜人をはじめとした12種族の移民国家群の集合体のようなものだ。この国の元、様々な国が武力的解決によって平和の状態を保っている。それは置いといてだ。これを見て欲しい。」


アグノは地図上の日本を指さした。


「この国は60年前に3つに分裂した。内政の乱れと竜人と人間との亀裂、食料不足などが原因だった。北部に大日本人民皇国、中部に大極東王国、南部に大日本竜人帝国に分かれた。」


竜子は地図上をみて納得した。それぞれの国境線が敷かれているのが確認できた。

大日本人民皇国の支配領域は北海道、千島列島、東北。

大極東王国の支配領域は、関東、中部、近畿、中国、四国地方。

大日本竜人帝国は九州、対馬、沖縄、台湾、朝鮮半島、満州、中国沿岸全域、モンゴル、沿海州、フィリピン、インドネシア、ベトナム、タイ、ミャンマー、マレー半島、マリアナ諸島を支配領域としていることが地理に多少理解ある竜子はわかった。


「この3つはイデオロギー的対立が深まっていて、竜人至上主義の大日本竜人帝国がまず独自路線を敷いて、分裂した。竜人以外の存在を認めないかの国は圧倒的力をもってその支配領域を拡大している。人口の9割が竜人で、残りの1割は強制収容所送りになった他民族だ。一方、少子高齢化の加速が止められず、大いにその権力を失墜した大和民族は北に逃げて、人口およそ500万人程度で生存圏を確保している。皇室や日本政府もここに逃げた。そこで人間至上主義の大日本人民皇国を建国。そして残った地方では、人間と竜人の共存を目指した国として大極東王国を建国した。それぞれが日本国の後継国家を提唱している。そんな状態なんだよ。この内乱を収めようと1番頑張ってるのは大極東王国で、武力衝突が度々起こっているが、この国は緩衝地帯のようなものになっている。最近では、大日本竜人帝国が、大極東王国と大日本人民皇国を併合しようと企んでる事前計画も察知していて、より一層混乱が訪れることになるだろう。こんな状態な上にゴッデスファイトでは負け続けているんだ。どの国もな。大国に物資を奪われ続け、大日本竜人帝国は武力によって解決しようと領土拡大路線に踏み切っている。そして大極東王国は分裂した国を1つにまとめることでこの問題を解決しようとしている。大日本人民皇国はもはや風前の灯。オレはゴッデスファイトという仕組みそのものを破壊したいと思ってる。」


【その話を聞くとこの世界線の日本は大変なことになってるね。ゴッデスファイトの存在が迷惑でしかないな。けど一部にはこれに希望もってる人も居るんでしょ?】


「あぁ。いるさ。オレやシャロンはこの仕組みを潰したいと考えてるがな。」


【他の国についても聞いていい?】


「ああ。いいぜ。まず、グレートブリテンサンザ王国。この国はそっちではイギリスと言ったな?この国は人類は多民族国家になっていて、その他に虚神族や海人族が住んでいる国だ。名前の通りこの国ではサンザリズムが蔓延った結果建国された国だ。

次いでその下にあるのが神聖大ローマ=ドイツ=ポーランド連邦。この国は人口の内訳が人間の数が2番目に多い国で最も統率がとれている。そっちの世界でいうヨーロッパの西から東まで全てを支配領域としている。それ以外に竜人と竜もいる。

次に、大ルーシ公国、この国は独裁体制が敷かれている全体主義国家だ。他の国より発展が遅れているため、開発独裁体制をとっている。悪魔族と地霊族が主な支配者種族。大日本竜人帝国と国境紛争を起こしているが、現在停戦中。

次に大中華統一国。この国は12種族が安寧秩序を保てるように建国された国だが、秘密主義国家で情報が少ない。現在大日本竜人帝国と戦争状態にあるが戦線は膠着している。

次に大スルタン国。遊牧民族や騎馬民族が暮らしている。獣人族や炎人族が主な支配者種族で、そっちの世界でいうトルコ~中東を支配領域としている。

次に大アフリカ連邦。旧世紀に他国からの多額の支援と開発により最も繁栄した国だったが、ゴッデスファイトに負け続けて、今では搾取される側になっている、支配種族は半霊族と人類。

次に大ヒンディー自由帝国。この国はその圧倒的人類の人口の多さで唯一、他種族の進撃を食い止めた国だ。人類においては最も繁栄している国と言っていいだろう。人口の9割が人類で残りの種族はこの国では抑圧され、差別されている。

次に大東南アジア諸国連邦。この国は大日本竜人帝国と戦争状態にあり、敗戦への一途を辿っている。人間や半霊族や吸血族が住んでいる地域だが、この種族間の中も悪く、連携がとれていないため、結束の塊である大日本竜人帝国に負け続けている。全土併合されるのも時間の問題だろう。

次にオセアニア統一連邦 この国は主に海人族が支配しており、次に吸血族が暮らしている。第1次産業が盛んだが、ここはゴッデスファイトに勝ったことが1度もないため、搾取され続けている。大日本竜人帝国が次に攻め込む予定の地域でもある。

最後にドイツ第6帝国。そっちの世界でいう南アメリカにある国だが、この国はドイツ帝国の継承国を名乗っている、竜人と竜が共同で支配している国で、人類は主にヨーロッパからの移民が多くいる。この国は人類と竜人の共存が出来ている国で日本も見習いたいものだ。


これらにアメリカ連立国家群とこの日本の3カ国を加えた合計14の国がこの世界には存在している。そして全ての国が国際全種族連盟に参加している。」


【聞いてて思ったけど旧世紀から名前とか変わってないんだね。アメリカとかドイツとか。】


「変わってないよ。はな。」


【あとサンザリズムってなに?】


「虚神族が唱えたもので、物質的幸福より、精神的幸福を満たすことこそが他種族との共存において重要だと考える思想だ。精神的幸福を満たすことにより、物質的幸福も遅れて満たされるという考えをゴッデスファイトが敷かれた後にできたもので、負けても国民の意識を保つために作られた代物らしい。詳しいことはオレもわからん。」


「まあ大方教えたし、シャロンその他諸々捜しにいくか。十式の間に向かうぞ。」


あいあいさーと竜子は応え、2人は十式の間に行く。


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