第13話 帰還
それからというもの、シャロンはザクトの行方を昼の間探すようになった。
宛もなく彷徨い続けた。
まもなく、小林香を返さなくてはならないという意識に駆られて、シャロンは小林香を「解放」し、この世界に解き放った。そして
「今までのことは内緒だよ。」と口約束だけした。
小林香は解放され、両親の元に返った。
泊まる場所を失ったので彼女は葛城を頼りにした。
結果的にシャロンは葛城の家で晴人と3人で暮らすことにした。
「3週間という期間だが、君たちはどうする?私のこの世界での希望は潰えた。
私についてきて私の世界の改善に私の元協力してくれるか?。無理にとは言わないが、竜人という身になった今、君達はこの世界だと生きづらいだろう。変身する度に身体の中のクウェル粒子は尽きていき、やがて無くなった時、君達は消滅してしまう。そのリスクも第792の世界に行けばなくなる。選んでくれていい。」
「私はシャロン様に着いていきます。元々の貴殿に対する意思は変わっておりません。それにあなたが掲げる理想郷をぜひあなたの故郷で実現させてみたいと考えています。」
「俺もいいぜ。あんたが元の世界で苦しんでたという話を聞いた時、素直に協力してあげたいと思ったし、ここに留まるより楽しそうだからな!俺は着いていく。」
2人とも自分の身を案じるより、シャロンを心配してついて行く意思を表明した。
しかし、
「私の能力を取り除くことは出来るの?」
「黒龍の力で破壊することで取り除くことは一応できる。ただし、8割の確率でしか成功しない。」
「なら取り除いてほしい。」
「どうして?」
「あなたについて行く気が無いから」
サキは突き放すように応えた。
「私は勝手にあなたの理想に付き合わされただけで望んでやったことでは無いし、
あなたの世界で抱えてる問題はあなたが王女という身であるならばあなた自身が進んで解決するべきだ。それに私は生命の理を無視するこの能力を満足に使う気もないし、使える気もしない。だから私はこの世界に残りたいし、竜人の能力を取り去って欲しい。」
「それは変わらない?」
「変わらない。お願い」
わかったわ。と言いつつ、黒龍を首筋から出現させ、サキの首筋を噛ませた。
「破壊」
そう呟くと、黒龍から黒い光が溢れでて、サキから力を吸い取っていた。
苦痛を伴うものだったがこれにもサキは耐えた。
「これであなたは元に戻ったはずよ。」
「ありがとう。それでは、健闘を祈る」
そう言い残してサキは去っていった。
数日後、
紅音はアグノの元に来ていた。
「あなたの知り合い?」
大久保は疑問をアグノにぶつけた。
「ああ。そうだよ。」
「あと2週間程度でこの子を連れてオレは元の世界に戻ると決めている。大久保さん。今まで世話になった。残り少ない時間だが、オレはこの世界を全力で満喫させてもらうよ。1番の目的は解決できたしな。2番目の目的は正直、別働隊に任せてしまっているがな。」
「シャロンさんがきっと見つけてくれますよ。」
「期待しておこうか。」
「まあごゆっくりお茶でも飲みましょーか」
「はいな。」
【私も強制的にその第792の世界に連れていかれるんだね。】
【ああ、もちろん。】
【それまでは私の体、譲渡する気は無いんだね?】
【ないけど、今はどう?まだ、自殺願望とかもってる?】
【どストレートに聞いてくるね。正直、このままだと私は未来永劫あなたと一緒に生きるしかない上に自由すらないまさに生き地獄なのでは?ただ、死者蘇生の能力を目の当たりにして、正直そんなものがあったとしても、結局人は死んでしまったら死人に口なしだし、復活なんて出来るもんじゃない、生きていなければ何も出来ないと改めて思ったね。だから安易な考えで死のうとは思わなくなった。むしろ私はあなたの言うゴッデスファイトに興味があるんだよね今。優勝すればあなたの故郷の経済も潤い、私になんでも願いを叶えることができる権利を与えられるとするならシャロンさんと私、アグノ全員にとってウィンウィンの関係なのでは?】
【なんでも叶えてくれるかどうか正直これにも信憑性は欠けることなのであまり強く言えないな。ある国の優勝した人物は自身に敵対する人物を根こそぎ粛清したりしたし、ある国の人物は大金持ちになっていたりはした。だから現実的に可能なものに限られるかもしれないし、正直天辺が見えない。それに優勝した時どうなるか詳しいことは分からない。けど優勝を目指す価値はあると思うね。】
【まあ、楽しみに待つわ。】
それからあっという間に2週間の時が流れた。
夕刻、丘の上。
「明日、いよいよ帰還ね。残念ながらザクトを見つけることは出来なかった。解析しようにも何も反応がなかったからただ、宛もなく彷徨い続けただけだったわ。なんの成果もなくてごめん。」
「しかし、ザクトを放置するのは危険だ。この世界で何をしでかすか分からない。またここに来る時があればその時対処するか、或いは捜索部隊を派遣するかまた検討するとしようか。」
【お力になれずすみません。勇者としての役目果たせず事ができずに。】
「カイエン仕方ないわ。今回は諦めましょう。」
「私、矢紬晴人、西野紅音。以上の3人は第792の世界に着いていく決意であります。」
【結局、3人とも着いてくるんだね。】
丘の上の5人はこの世界での最後の晩餐をした。
翌日、公園。
「そろそろポータルが開くお時間のはず。」
「待ってー」
「あぶねー。遅れてすまん。」
紅音と晴人が合流した。
「いよいよですね。シャロン様」
「約1ヶ月だったけど、短くも長かった。サキも着いてきて欲しかったけど残念ですわ。」
そうこうしてるうちにポータルが出現した。
その様相はブラックホールのようだった。
中からある人物が声をかけた。
「よう!アグノ!シャロン王女!早くここに入ってください!」
「久しぶりだな。アロン。」
【アロン?風のアロンって言ってた人か。】
「そうだよ。向こうから聞こえるこの声はやつで間違えない。」
「じゃあ。行くか。」
「「「「はい!」」」」
そうして、5人はポータルの中に足を踏み入れた。
第1章~完~。
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