第10話 託された力
「改めまして、私、西野紅音と言います。耳が不自由だったのですが、シャロンさんに力を与えられて、そのー、竜人と言いますか…になったわけです。そしたら、耳が治ったんです。そして、アグノさんとザクトさんを捜してほしいという願いを受けて、今、学校いくついでに捜していました。そこで話しに聞いていた特徴と一致する方がいらしたので、声をかけさせていただきました。」
「この痣に目星をつけていたのかな?」
「そっそうです…あのー宜しければ今日の夕方、私に着いてきてくれませんか?シャロンさんにあって頂きたいのです。」
「ぜひ、そうしてくれ。夕方ここで待っていたらいいかな?。」
「はい。大体18時くらいでお願いします。」
「わかったよ。学校に行くんだろ?。行ってきな」
「はい!。ありがとうございます!」
紅音は歓喜に溢れた。
こんなに早くアグノとコンタクトを取れるとは思ってもいなかった上に想像以上に簡単に事が運んでくれて助かったとほっとしている。
そして若干口が臭いことに気づいてはいたがまあ流した。
私が1番貢献したのでは?とすら思っていた。
本当にただの偶然の産物に過ぎないが、アグノもアグノでひたすらに待ち戦法していた甲斐があったので遂に事を進めることが出来て、この世界に来て1番の成果なのでこちらもまた喜んでいた。
「あなたに力を…」
「力?何なんですか?」
こちらでは、1人の少女が女子大生に対して閑散とした道端で何やら唱えている。
少女はやがて黒いモヤに包まれて、全身が飲み込まれた。
そして姿を現したのは妖艶な美女だった。
「創造」
首筋から白い龍が顔を出し勢いよく飛び出して行った。
そして女子大生の首筋をガブッと噛んだ。
「えっ何…。そして痛くない!?」
「あなたは名前は大黒サキ。事故で父親を亡くして母親と2人暮らし、満足に毎日の食事を食べることもままならない、ひもじい生活を強いられている上に多数のアレルギーを持っている。学費を稼ぐためにせっせとバイトをしている苦学生でもある。そして今の現状に満足していない…。幸福度25。そして竜人適正96。今の生活を変えてみませんか?私と共に幸せで満足できる日々を送りませんか?あなたは私の〔家族〕になる資格がある…。」
「何故私のことをそこまで知ってるの?あなた一体何者なの?」
「私は第792の世界からこの世界に舞い降りた幸せをみんなに手に取って貰いたい思いからこの世界を牛耳り、全国民が幸せになれるような国あるいは世界を作りたいと思っています。革命により、個人の資本を社会の共有財産として管理し、身分制を無くし、無階級社会を目指し、物質的、精神的幸せを平等に分配し、平等で健全な社会運営を将来的にしたいと思っています。」
「とんだ理想主義者なんですね…ただそんな理想社会の実現なんて私達人間には無理よ。人間をやめなければ、できっこない。」
「あなたは今から人間をやめるのですよ?」
白龍から猛烈な力がサキの体に流れ込んだ。
強烈な力の注入に五臓六腑破裂するかの如く、常人では耐えきれるものではない。
しかし、サキは耐えた。
今まで苦しい思いをしてきた分、苦しいものに対する耐性がついていたのだ。
シャロンのこの「創造」の力に関して、苦い思いを味わってる人間ほど成功率があがるという仕組みであることを彼女は理解していた。
だから今回サキを狙って採算が取れると思っていたのだ。
力の注入が終わりこう告げた。
「見事耐えきりましたね。あなたの能力を確認させていただきます。」
反対の首筋から黒龍が顔を出して、勢いよくサキの首筋を噛んだ。
「あっ」
「確認させてくださいね。」
黒龍から送られてくるデータにシャロンは歓喜した!
「こっこれ…」
「大当たりよ!あなたの能力大当たり!死者蘇生の能力を会得しましたわ!」
「能力?なにがなんだかついていけないし、あなたが人外だということだけがわかるわ。ただ怖くもないし、逃げる気もない。あなたが言う通り、私は今の生活に満足してないし、飽き飽きしている。それを救ってくれるという甘い言葉に釣られたくないけど、釣られてしまったわ。殺される気配もしないし、信用はしてないけど、その能力とやらは気になるわ。」
「あなたの能力は死者蘇生、読んで字のごとく、死者を復活させることができる。
この能力で〔失われた王〕を復活させることができるのなら、その圧倒的力をもって、この世界に存在するあらゆる武力に対して圧倒的優勢を保てる。どんな勢力に対しても対抗しうる存在。そんな存在を従えることができる唯一無二の能力…それが死者蘇生の能力。これにより、世界に対して力を誇示することで、牽制し、あらゆる交渉を有利に進めれる…。問題は〔失われた王〕を私がコントロールできるか、出来ないかだけど会ってみなければ分からない。私は元いた世界ではあなたと同じように苦しい生活を送っていたわ。だからこそあなたの気持ちもわかる。そこで私は私と関係ない世界において亡くなったとされる通称〔失われた王〕を復活させ、支配階級を抑圧し、労働者階級による革命を起こし、無階級社会を実現させる。この世界ならば実現できると私は思ってる。竜人は人間が第792の世界に適応するために竜と融合したことによって誕生したとされているが、別に優れた生き物というわけではない。人間より少し出来ることが多いだけでしかない。あなたも晴れて竜人の仲間入りしたわけでいきなり申し訳ないし、さっき言ったことと矛盾してるかもしれないが、決して人間より優れた生き物というわけではない。支配階級に属しては弱者からあらゆるものを奪いとるという点において人間より強欲で残虐であると言わざるを得ない。そんな世界を見ていて竜人が統治する世界に失望してしまった。私自身元々人間で、人工的に竜人になった身だけど正直後悔の念もある。ただ私は見てみたいの。竜人では成し遂げられない、人間ならば平等な社会の実現ができるかもしれないという淡い期待をしているの!だからその期待に応えて欲しい!お願いだから協力してほしい!」
シャロンはひとしきりまるで演説したかのような饒舌な喋りで疲れた。
それに対して、
「あなたが異世界からきた得体の知れない者、まるで本当とは思えないが、現実、これが起きている訳だし認める他無いわけだけど。まず、死者を復活させる能力に関して、確かに魅力的だし、私も父親を復活させて見たいとは思う。しかし、死者に対する1種の冒涜行為であると私は思う。人には運命ってものがある。その理から逸脱した行為をすることこそ不平等だと思う。死んだ人が大勢いる中で何故その人だけ復活する権利があるのか?あなたが掲げる理想的社会を作る上で必要悪なのかもしれないがそもそも根底としてよろしくないと私は思うな。だから私が死者蘇生の能力を実際手にしてるか分からないが、手に入れてるとして使うことはしないつもりだし、あなたに少なくとも協力する気は無い。第2に人間に期待すると言っているが、私は人間に期待するだけ無駄だと思ってる。人間こそ、自らが作り上げたルールで自然界を支配し、勝手に森を伐採し、勝手に動物を殺しては食べているし、強者は弱者をあらゆる手段で拘束し、法律など、公的に認められるルールに則り、他人をも支配し、役に立てないものは排除。問題のある者は排除。弱い者は排除される。ガチガチに統制するのは何故か?それは人間が強欲だからだよ。ルールをもって相互尊重の元、共生を図らないと闘争を繰り返す。誤ちを繰り返す生き物だから。そして、あなたもその〔失われた王〕をもって、統制すると言ったね?つまり独裁体制をしいて、全体主義体制にするわけじゃん。結局人間なんて統制する必要が生じるのは守ることが難しいからだよ。あなたが掲げる思想を日本で支配する側にその失われた王やあなたがなるわけで、その元で労働者階級の人達が統制されて暮らす。そして幸せが配分できるのか?1人の人間が国民の全てを管理できるのか?人間ができるわけが無い。人間がそんな理想を全員が守れるはずがない。そんな自由主義社会が受け入れられる段階ではない。私自身政治に詳しいわけではないが、そんな気がするな。こんなに業が深い生き物なんて早々いないと思うね。以上のことから私はあなたの理想には反対するし、手伝う気もない。そして死者蘇生の能力も使わない。」
そう突っぱねた。
シャロンは
「ルールなんて私達が知的生命体である以上、必要なもの。統制なんて取れないと生きていけるはずがない。ルールを守る大切さこそ人間が1番知ってるでしょうが!ルールから溢れる人は極力なくすのよ!正しい思想を共有し、計画的経済、失われた王による統治により、それ以外の思想もつものは〔家族〕と見なさず、消してしまえばいい。もしくは修正させるか隔離する。そして同じ思想を共有し、相互尊重できる者同士だけで無階級社会を作り上げ、幸せを共有していきたい!そうして、不平等条約なども全部撤廃できるようになれば尚のこといい。そして全世界を統べるのよ!」
「私からすればあなたは理想論者でしかない。そんな上手く行くはずがない。そして結局は弾圧するのであれば過去の支配者と似たような過ちをあなたは犯すだろうね。そして人間をより罪深い生き物にしていくだけ。結局何も変わらない。期待するだけ無駄。」
シャロンはここまで言いくるめられるとは思っていなかったので予想外の事態に慌てふためいている。状況把握能力と対処能力があまりにも高すぎてついていけなかったのだ。
「私の元いた世界では2年に1度ゴッデスファイトという総合戦術サバイバル大会が開かれる。ここで命を落とした若者の数は数しれず、この大会も竜人が取り仕切っているけど、優秀した者の出身の国に対しては負けた国からありとあらゆる物資が送られるのに加え、何か一つ願いを叶えることが約束されている。私の国は勝ったことが1番最初の大会しかなく、毎年のように搾取され続けている。オマケにありとあらゆる不平等条約を締結させられている。私は王女よ。だけど裕福な暮らしはできていない。階級社会だけど、正直あってないようなもので、王族の私ですらひもじい思いの中暮らしている。そんな国の行く末を見てきたから、私は今までいた世界に絶望してこの世界で理想郷を作りたいと思ってるの!だからあなたの能力が欲しい!お願いだから協力して!」
サキは沈黙してから答えた。
「私自身ひもじい思いで暮らしてるし、アレルギーはあるから食べる物も限られているし、やせ細っている。そして、父親もいないから父親の愛情も受けられない。今の生活に満足もしていない。しかし、希望は捨ててない。満足していないけれど、確かな今の生活がある。この生活の中で私は今まで暮らしてきたし、そしていまがある。この運命に対して文句は言いたいが、受け入れることはできる。だから私は今までのように暮らしていきたい。あなたの件についてはとても共感はできる。ただ、死者蘇生の能力を使うには至らないと判断したよ。ごめんけどもう終わりにして欲しい。」
シャロンは畳み掛ける。
「私は私自身、あなたと同じように満足していないが、私には守りたい世界がある。まだここに来て日は浅いけれど、第792の世界の元になったこの世界で生きていく上で私は今の世界の現状を受け入れることはできないし、元いた世界に戻ることもできない。だからこそ変革を必要としている。あなた自身運命に縛られすぎなのでは?既に私によってあなたは竜人となった。今まで通りの暮らしなんてできっこない体になったのよ?そんなあなたを誰が受け入れるというのか。これもあなたの運命とするならば、私に協力するのもまた運命と言えよう。」
「もう…。何言っても私の考えの根底にあるものは変わらないよ。ただあなたに協力する気にはなった。確かに今竜人の身となったというかさせられた私を誰が受け入れるか?あなたしか居ないかもしれないということが頭を過ぎったから。だから知り合いとして協力してあげてもいい。」
「知り合いなんてもんじゃない!〔家族〕!」
「まだ会って30分なのに家族なんてよく言えたものね…」
シャロンはサキの手を握り、ありがとうの意思を込めた。
サキはそれを察して握り返した。
「それでは、私についてきてくれる?」
「今から?学校あるんだけど…まあ行ける身でもないか…着いていくよ…」
シャロンは歓喜に酔いしれた。
長い道のりだったけれどようやく能力を集めることができたと
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