第5話創造されし竜人
一般記者として働いていたが昨日も成果が上がらないままでモチベーションが下がっていた。土曜日になったことだし、暇つぶしに公園に来ていた。
悶々とした日々を過ごしていたがなにか新しい生き甲斐がほしい。そう願っていた。
「幸せが転がり込んでくるなんてことないかなぁ。2次元の生活してみたいぜ。
3次元には飽き飽きしているしなぁ。」
晴人は公園のベンチに頭を垂れながら座っていた。
そんな彼の隣に1人の少女がきた。
「お兄さんなんで俯いてるの?」
「いやぁ。なんというかつまらない日々に飽きているところなんだ。なにか刺激がほしいそう思ってるところだ。」
「竜人になってみたいって思わない?」
「中々面白いこというね嬢ちゃん。なれるもんならなってみたいねぇ。大空飛んで快適飛行。尻尾を使って曲芸したり、口から火を吹いてみんなを驚かせたりしたらそりゃ楽しいだろうなぁ。ただな。現実は厳しい。そんなものは転がっちゃいない。あくまで妄想で留めるしかないのさ。」
とひとしきり言い終わるとため息を晴人はついた。
「ならば私が叶えてやろう」
少女は急に艶めかしい声を発し、黒いオーラのようなものを身に纏っていた。
ただ者ではない恐怖をその一瞬で晴人は感じ取り、逃げ出そうとするが、晴人が行動するより前に少女の首筋から白い龍の首が生え、晴人の首筋を噛んでいた。
不思議と痛みは感じなかった。
「創造」
そう少女が呟くと白龍から白いオーラが出ているのが晴人は確認できた。次の瞬間、強い力が晴人に流れてくるように晴人は感じた。噛まれている首筋から溢れんばかりの力が注入されているように感じた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」
晴人は思わず叫んだ。
程なくして白龍は首筋から口を外したと同時に少女の首筋のもう一方から黒い龍の首が飛び出してきて晴人の首筋を噛んだ。
「解析」
と少女は口にした。
まるで軽い電気ショックを浴びたような感触を覚えた。
「終了。これであなたも立派な竜人だ。あなたに加護があらんことを」
少女は晴人の目の前で十字を切った。
そして少女は黒いモヤに包まれた。
次の瞬間、そのモヤが晴れるとそこには20歳くらいの妖艶な女性が立っていた。
首筋から白龍と黒龍が顔を出している。
晴人は何が起こったのか訳が分からなかった。
〔えっ竜人?まさかとは思うがそんなことあるわけ。というか目の前のあんた誰だよ。とてもこの世のものとは思えない。〕
「そんなことがあるんですよ。これにてあなたは今日から私の【家族】の一員です。共に助け合いながら頑張りましょう。」
「いやぁでも俺確かになんか力がぶぁーって漲るような感覚はあるんだけど。何がどう変わったのかわからんし、そもそも君はどこのだれで、今何が起こったのか説明してくれ。アホな俺にはわからんわ。」
「私は名はシャロンと言います。第792の世界からはるばるこの第9の世界にやって来ました。目的は〔失われた王の復活〕と王による新たな支配体制を築きあげることです。今はその足固めをしているところでして、私と〔同族〕を増やそうとしているところです。あなたは私が飼ってる〔解析屋〕の目に留まりました。そこであなたに竜人の能力を植え付けました。これでつまらない日々からも解放されることでしょう。ぜひ私に御協力願いたいです。」
「…王?竜人?…俺は竜人になっちまったのか?。どうやったら能力使えるんだ?」
「オラッ」
拳を前に突き出すが何も起こらない。
「おりゃー。」
蹴りを繰り出すが何も起こらない。
「なにも変わってないじゃん。」
「解析屋によればあなたは自身の半径50m以内のクウェル粒子の流れを操ることができるドラゴニックアーツを取得したようですね。残念ですがこの世界では使いものになりませんね(笑)」
「ようはハズレ引いたわけか」
「しかし、竜人の基礎的な能力は使えますよ。飛行もできるし、尻尾を自在に操ることもできます。変身してやってみて下さい。」
「変身ってどうやるん」
「念じるだけでできるはずですよ。」
頭の中で変身しようと晴人は念じる。
すると羽が生え、爪が鉤爪になり、尻尾が生え、皮膚も鱗のようなものに変わった。
「これが竜人ってやつか。まるで夢みたいだが」
晴人は頬を抓った。
「現実みてぇだな。信じられない。」
「まあこれからは私の家族なんですから一緒に〔失われた王〕の居場所を突き止めてみませんか?」
「この能力隠し通して今まで通りの生活も送れるなら少しは刺激的な日々を送れそうだな。なんか自分でも驚くくらい割とあっさりこの状況認めてしまってるわ。まあ今後ともよろしく頼むぜ。」
「ひとつお願いがあるんですが。」
「なんだい?」
「一緒にある丘の方へ言ってくれませんか?」
「別に今日は暇だからいいけど。」
「こちらです。」
シャロンは飛行しながら手招きした。
「ちょっと待てよ」
晴人は慌てて飛行しながら着いていった。
あっという間に目的地に辿り着いた。
「ここです。」
「ここかぁ。それでなんの用?」
「ここを集合場所と決めてるんです。私の〔家族達〕の集合を毎日ここと決めています。時間としては太陽が西に沈む頃ですね。今はまだ集合時間ではないですから集まってませんがこれからここに最低でも週に1度は顔を出して欲しいです。」
「週1でいいなら土曜にすっか。」
「それでも結構です。ここで報告とか諸々行いたいと思っております。」
「うん。約束は守る。それじゃもう行っていいか?今日の夕刻にここに来ればいいんだろう?」
「はい。そうです。今日の夕刻にここに来てください。」
「じゃあな。また来るわ」
晴人はそう言って恐らく自宅の方へ飛び立っていった。
「養殖成功ですわ。」
【ただ能力はハズレのようですが。】
「〔家族〕という名の手足は多くて損はありませんわ。ほほほほほ」
不敵な笑みを浮かべてシャロンは小林家の方へ向かった。
一方その頃自宅であるマンションに着いた晴人はまず、確認していた。目は正常か?耳は正常か?味覚は正常か?触覚は正常か?記憶は正常か?
竜人の姿のままだったが特に変わったところは無かった。
「これ元に戻る時も念じればええんかね。」
晴人は念じた。
するとたちまち人間の姿に戻った。
「しゃー。」
そしてまた確認した。目は正常か?耳は正常か?味覚は正常か?触覚は正常か?記憶は正常か?。
人間の姿でも特に何も変わってなかった。
「にしても本当に妄想みたいな現実って転がってるもんなんだな」
そう言って晴人は疲れていたので寝た。
幾ばくか時間が過ぎていた。何やら煙たい。
ゲホンゲホン。晴人は咳をしながら起きた。
ブザーが鳴り響いていた。
ん?火事か?。
どうやら下の階で火災が発生したようだった。
窓の外から見下ろすと一面炎の海だった。
最上階である6階にいた晴人はなんと取り残されていたのだ。
「なんてこった。一体どうして火事なんかが起こってんだ?。」
急いで部屋から出た晴人だったが、5階へ続く階段も既に炎で包まれていた。
「どうすりゃいいんだよぉぉぉ」
頭を垂れていた晴人だったが思いついた。
「そうだ。あれがあるじゃねぇか。」
晴人は念じた。
背中から竜の翼を生やし、一目散に自室に戻った。そして、窓を開き、大急ぎで窓から脱出した。
「間一髪だったぜ。」
空中から晴人はマンションを眺めていたが、下には多くの民衆が蠢いている様子がわかったが、みんな目前の火事に夢中で晴人には関心が無かった。
バレたら不味いのでその場から晴人は離れた。マンションは間もなくして全焼した。
火事の発生原因は如何なるものか?消防隊が駆けつけていた。
逃げ遅れたと断定されたのは晴人だけだったようだ。
夕刻…
「ハァハァここだったな…」
晴人はゼェゼェハァハァ息を吐き出しながらとぼとぼと丘の上に歩いていった。ちょうどいい大きさの木と岩があった。
岩に腰掛けた。
すると
「何者だ!」
女性の声が聞こえた。聞きなれない声だ。
目の前に現われたのは眼帯マスクをつけた女だった。同時に
「喧嘩はよしなさい」
シャロンも現われた。
「この人は矢紬晴人と言います。新しい〔家族〕です。手荒な真似はしないでくださいね。」
「かしこまりました」
「その人も〔家族〕なんですか?」
「えぇ。そうよ。では早速会議を始めましょう。」
「本日の議題は如何にしてアグノを炙り出すか?についてです」
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