第4話 一家団欒

 大久保はアグノと竜子のために晩御飯の支度をしている。その間の会話である。

【というかなんで日本語知ってるの?まさか第792の世界で公用語なのか?】


「ドラゴニックアーツ第14の技のマインドスキャンと第17の技他言語読解を組み合わせて話している。ただ竜言語と通ずる単語も多いのでそこまで難解では無いと思っている。」


【日本語とは言わないんだねそっちの世界だと。】


「言わないな。竜人が話すのは竜言語だ。オレの故郷に人間はいるが、そいつらの話す言語と日本語は9割型似ているように感じるな。まあこれも第9の世界が元になってる証左の一つだ。」


【109の技使えるって言ってたけど。どうやって覚えたの?】


「融合することによって対象を取り込むことで同時に能力も獲得する。ただし、ひとつにつき1年かかる。つまり、君の能力を取り込むのにも1年かかる。」


【えっとちょっと思ったんだけどそれまで融合した人達はどうなったの?】


「オレのの中で生きているよ。表に顔を出すことができる機会は能力獲得前より圧倒的に少なくなるし、分離することも二度と出来ないし、今の君のように会話をすることすらままならない。つまり君がこうしてられるのも1年の猶予しかないよ」


【衝撃的な事実を聞かされたんだけど!自由を奪われたまま生きるって死ぬより辛い気がするんだけど!。どうにかして離れられないの?。】


「オレ自身離れ方は知らない。ただ一つだけ可能性を求めるなら手段はあるっちゃある。」


【なによそれ!教えて!】


「第792の世界で2年に1度開かれるゴッデスファイトってのがある。それに優勝すればなんでも願いが一つだけ叶うとか叶わないとか。」


【そんな催しがあるのね?ぜひ参加したいわ。】


「生憎だが、オレには参加資格がない。」


【は?どういうこと?】


「この顔の痣は参加が者にきざまれるものだ。これを取り除かないと参加することはできない。」


【どうしてそんなのつけられたの?】


「強すぎるから」


【それはまたどうして】


「参加資格として成人の人間の男性2人がかりで対等に戦えることができるものまでしか参加資格かない。オレはその参加資格を優に超えている。だから1度応募したが、却下され、この焔の痣が刻み込まれた。」


「どうにかして取り除かないといけないが、ひとつだけ案がある。」


【それはどんな?】


「応募する時今は君の体なわけだ。つまり、君に一時的に体の支配権を譲渡し、参加資格を得ることができるように体力テストを君が受けてもらう。そしたらこの痣を消してもらうことが出来る。過去に記録に残ってるかもしれないが、もしそうだとしたらいざとなったらオレが審査官の記憶を改竄し、過去の記録も葬り去ることも可能。君と融合しているからこそできることだと思ってるんだが」


「お待たせしましたー」


 大久保が晩御飯を用意してきた。


「今夜は手作りハンバーグでーす。召し上がれ!」


「いただきます」 【いただきます】


【って私食べられへんわ笑】


 竜子は知らず知らずのうちに気づいていた。アグノと出会ってから人と喋ることが楽しいことに。その事に感謝していた。


【まあ話はまた後で聞くか】


 その場は記者、大学生、竜人に囲まれていたがとても暖かい雰囲気に包まれていた。


一方その頃、シャロンと葛城は小林家の前に来ていた。


「それでは、また明日。」


「今日の報告で1歩前進できたわ。ありがとう。」


葛城は姿を一瞬にして消した。


「さて帰りますか」


シャロンは小林家の家の玄関口に来ていた。軽やかな足取りで中に入っていった。


「ママ。遅くなってごめんなさい。」


「こんな時間までどこ彷徨いていたの?ご飯の準備できたから食べに来なさい!」


「はーい。」


シャロンは小林家の長女である小林香に化けている。

彼女はこの世界に来た時、最初にまずやったこととして「泊まる場所の確保」だったが、その方法として下校中の少女を攫い、その少女に化けて、その少女を亜空間に閉じ込めるというものだった。シャロンは双頭の竜を首筋から生やしており、黒龍と白龍と呼んでいた。白龍は「創造」の力をもち、黒龍は「破壊」の力をもっていた。白龍の力で「収納」により、少女を亜空間に捉え、黒龍の「解析」により、その少女の情報を全て引き出していた。そうして完璧に偽装していた。


【明日、遂に捜しに行くのですね】


【そうねカイエン。ここの人にバレないよう慎重に】


カイエンはシャロンに第792の世界で仕えていた人間の勇者である。「双刀のカイエン」と呼ばれており、王女の用心棒を買って出ていたが、いつでも傍に置いておきたいというシャロンの希望により、シャロンと融合してしまった。


【ついでに「養殖」も明日やるわ。】


【2人目を作り出すんですか?葛城だけで十分では?】


【手足は多い方がいい。】


【王女がそう仰るのであれば私は止めません。】


【いずれこの世界も掌握してみせる。「失われた王」も復活させてみせる。ふふふふ。】

不敵な笑みを浮かべて、シャロンは食卓についた。


「いただきます」


父、母、娘の一家団欒とした雰囲気に包まれていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る