第2話 「肉体労働が始まった」

ボクこと、赤沢ヒカリは今日、この会社「チームフロンティア」に入社したばかりの新入社員だ。


なのに初日から酷い目にあわされている。


高校で同じ部活だった遠藤先輩に誘われて、「遊んで金が貰えるいい仕事」と聞いてノコノコやってきたのに。



ボクは今、村の真ん中でモヒカンのチンピラ8人に囲まれていた。



「オメェ見ない顔だなぁ? ああ?」


チンピラの何人かがボクにメンチを切っている。

どどど、どうしたらいいんだこれ……。


(先輩! 先輩! なんなんですかこれ! 村に入った瞬間囲まれました!)


言葉を発さずに、外の世界にいる先輩に連絡をする。


「それなぁ。男のキャラだとそいつらめちゃくちゃ絡んでくるらしいんだよ。だからお前に頼んだのに」

(いや、それ! 先に言うでしょ普通!)

「まさか男キャラにするとはなぁ」

(先輩は本当にどうしようもなくアレですね!? 先輩は本当に……先輩ですよ!!)


悪口を言おうとしたのだけど、「先輩」以上の悪口が浮かばなくて先輩になってしまった。


「とりあえず土下座して、有り金全部渡せば許してくれるだろ」


どうして村に入っただけで土下座して有り金を渡さなければいけないのか全くわからなかったけど、大人しく従うことにした。


「これで全部です……許してください……」


ボクは有り金の10Gを差し出した。


「ウヒョ! こいつ金を出して来たぜヒャッハー!!」


どういうテンションなんだろう。

これもAIが作った人格のはずだから、AIには人間のチンピラがこう見えているのだろうか。

なんだか現実世界が心配になってきた。


「もっとあるだろ? ああ?」

「いえいえいえ! これで全部です! ほら! 見て! カラッポなの!!」


お金の入っていた布袋を上下に振って、必死にカラッポなことをアピールする。


「チッ。なら仕方ねぇ。体で払ってもらうしかねぇなぁ!」


だからボクが何をしたって言うわけ??

(先輩! マジで一体どうなってるんですかこの世界は! 話が通じているような通じていないような!)

「NPCの思考がぶっ飛んでいることは良くある。慣れろ」


慣れたくねーです。

あと、今日で仕事辞めさせてもらいます。


「オイ、こっちに来い!」


チンピラたちに腕を掴まれ、ボクはどこかに連れて行かれることになった。

諦めて無抵抗で連行された先は、村の鍛冶屋だった。


「親方ァ! 新しい奴が来ました!」


家の奥から出てきたのは、やたらガタイの良くて、ヒゲを生やした爺さん。

まさにもう見た目で頑固職人だぞと大声で言っているに等しかった。


「オゥ。奥に連れてけ」


一目だけボクのことを見て、頑固爺さんはそう言った。


チンピラたちはさっきのテンションはどこに行ったのか、「ヘイ」と短く言って、ボクを奥の部屋へと連れて行く。


明らかにこの爺さんを恐れている態度だ。


(先輩ボクどうなっちゃうんですか帰っていいですかお腹痛いんですあとおしっこも我慢してるんでなんならもう漏らしたかもしれないです)

「ほんとか? ちょっと待ってろ」


え、先輩? どうにかしてくれるの?

いつも鬼畜ゴミクズ人でなしバカアホ畜生先輩とか思っててごめんなさい。


「ヒカリ。大丈夫だ、安心しろ」

「もうログアウトして大丈夫ですか!?」

「いや。トイレの件なら、お前の着替えたスーツにオムツが付いているから、安心して漏らしていいぞ」

「……」


そういうことじゃねーです。


「大のほうでもあのオムツなら大丈夫だ」


この人まーじで鬼畜ゴミクズ人でなしバカアホ畜生先輩。


「それで、攻略のほうなんだが」

「鍛冶屋は運が良かったな。ここで自分の武器が作れるぞ」

(そうですかー)


全然嬉しくねーです。


「ちなみに女性キャラだったら村に入った時点で武器防具、アイテム一式が貰えたんだがな」

(なんでそんな女性ヒイキなんですか!)

「んー、女性ユーザーが増えると男性ユーザーも増えるからじゃないか?」


めっちゃ俗物的なこと考えるやんAI……。


「オィ、ボウズ」


爺さんがボクに声をかけた。


いつの間にか、チンピラたちはどこかへ去り、鍛冶屋にはボクと頑固爺さんだけになっていた。


「は、はい!」

「オメェ、剣は打ったことがあるか?」


あるわけないよ!


「あ、ありませんけど……」


「そうか。ジャア……」

「インベントリを開いて、ハンマーを選択、装備してください」


「んん?」


爺さんが急にシステム口調になった。


「お、チュートリアル始まったな」

さも当然のことのように先輩が言う。


「いやいやいや、おかしいでしょ」

なんで爺さんにシステムメッセージ喋らせちゃってるの。


「細かいことを気にするな」

細かい、かな……?


「ハンマーを選択したら、素材を選び、ハンマーで叩いてください」

「タイミング良くたたくと、ボーナスが付くことがあります」

「……わかったか?」


急に爺さんの口調に戻らないで。


とりあえず、言われた通りにハンマーを装備し、素材を叩いてみる。

2,3回叩くだけで、みるみるうちに鉄が剣の形になっていく。


(ここはゲーム的なんですね……)

「そりゃゲームだしな」

(わかってはいるんですけど……)


風景のリアル差とのギャップが凄い。

ボクがやってた他のゲームはもうちょっと自然に見せていた気がするけど……。


カンッ! カンッ! カンッ!


どこを叩いても剣の形になるのは違和感しかなかった。


「ロングソードが完成しました」

そして急に爺さんがシステムメッセージを喋りだす。


「……」


それ爺さんに喋らせる必要あった?


ボクはロングソードを手に入れた。

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