サービス終了したクソゲーをクリアするのが僕たちの仕事です

水原キサト

第1話 「やばい世界が始まった」

風になびく、広大な草原

遠くに見える霞がかった美しい山々

日差しもそう強くない、ピクニック日和の青空の下で、



ボクは死んでいた。



「先輩、入ってすぐ、死にました」

現実世界に通じるボイスチャットで、僕は業務報告をした。


そう。ここはVRゲームの世界。

そしてボクは今、仕事中だ。


「あー、見てる見てる。1分後にリスポーンするから、ダッシュで森に逃げ込め」


カップ麺か何かをすする音の後、遠藤先輩はそう言った。

この人、サポート役のはずなのに「メシ買ってくる」と言って席を外していたのである。


おかげでこっちは酷い目にあった。


キャラクター設定を終えてログインした直後、急にレベル50と表示された機械のようなモンスターが現れ、ボクはそいつにボコボコにされたのだ。


ゲームとはいえ痛みはあるんだ。

現実の10分の1程度に抑えられてはいるけど、

そもそも、この手のゲームは致命ダメージの場合は痛みを完全カットするのが相場のはずだ。


なのに今やっているこのゲーム、"メタルブラッドサーガ"では、そんなのお構いなしに痛みを与えてくる。


恐らくこの全身VR装置の限界の痛みを味わったのだろう。

屈強な男からボディーブローくらったぐらいの痛みだ、たぶん。


さっさとこの仕事、終わらせたい……。


「先輩、わかりましたけど、なんで最初からあんなモンスターが出てくるんですか?」

「絶望を味わうのがコンセプトのゲーム、だそうだ」


……そりゃサービス終了するわけだ。


「リスポーンするぞ。さっきの奴はまだ近くにいるから、全力で逃げろよ」

「りょ、了解!」


死ぬと周りの景色が真っ白になり、そこでリスポーンまでの時間を待つことになる。

時間が経てば、真っ白だった景色がだんだんと形成されていく。

ボクの回りには先ほど見た草原や山々の景色が作られていた。


そして目の前に、さっきのモンスター。

近くというかもう、隣と言っていい。

出待ちですか?


「せんぱぁああああああい!!」

「おう、頑張れ」


ボクは全速力で南の森へと走った。

しかしモンスターもぴったりと付いてくる。

このままだとスタミナが切れたときに追いつかれてしまう!


「何か、何かないの!?」


急いでアイテムインベントリを開く。

初期装備と、何か一つだけ、アイテムがある。

手榴弾のようなアイコン。


「先輩これなんですか!?」

「あー、それな。使えば一定時間敵の動きを止められる」

「早く教えてくださいよ!!」


ボクはすぐさまアイテムを取り出し、敵に投げつける--


「でもそれ足止め効果が切れると、敵が強くなるんだよ」

「なんで!?」

「絶望を味わうのがコンセプトの……」

「もう味わったからぁ!!」


敵の動きは一瞬止まったが、すぐに動き出した。

全く効果がない。

なのに敵のレベル表示は75になっていた。


もうバグでしょこれ。


「いやだあああああ! 死にたくないいいいい!!」

「大丈夫だって。現実で死ぬわけじゃないし」


先輩は完全に他人事面をキメていた。


「こっちでも死にたくないんですよおおおお!!」

「あ、ていうかヒカリお前、なんで男キャラにしてるんだ?」

「そんなの今どうでもいいでしょおおおお!! いつも男キャラでやってるんですよおお!!」

「んー、まあいいか。そろそろ安全地帯に入るぞ。そこなら追ってこない」


先輩の言った通り、森を抜けるともう、そこから先は追ってこないようだった。


「なんなんですか、このゲーム……」

「AIの作るゲームなんて100本中99本はこんな感じだぞ?」

「うそでしょ……」

「それより向こうに村があるのが見えるか? あれが最初の拠点だ」


丘を下ったところに、確かに村があるのが見えた。

ひとまずはそこで休んで、装備を整えよう。


「あー、村なんだけどな」

「はい」

「気を付けろよ。モンスターより手ごわいぞ」


……何を言ってるんだろうこの鬼畜先輩。


「いやいや、どういうことですか?」

「村人はモンスターより手ごわい」

「……」


ボクは一刻も早く今日の仕事が終わることを祈った。

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