「大人は勝手だ」

夫婦喧嘩の毎日から数年がたったある吹雪の夜

私は記憶にあるだけで初めて母から抱きしめられた。


「ごめんね。お母さんはカノンの事を愛していたのよ」


私は意味が分からなかった。

なぜ抱きしめられたのか。

初めてもらった温かい母親の言葉。

今までされたことをすべて忘れられるくらいに嬉しさがこみ上げた。

ただ、次の日から家の中には母の姿はなくなった。

父に理由を聞いたことはあるが


「お前に関係ないだろ」


そう冷たく言い放たれた。

それ以上私は何も言えずただ俯いた。

きっと母親はもう帰ってこない。

幼いながらにそれだけは理解できた。


父は母がいなくなってから私のことを避けるようになった。

私が母と似ているからだ。

真っ黒い髪の毛。

ちょっとしたしぐさ。

言葉遣い。

何よりもきっと吊り上がった目が母親に似ていたのだろう。

様々な点できっと母のことを思い出させたのだろう。


母がいなくなってから今度は父からの虐待が始まった。


「お前さえいなくなれば」

「消えてくれればいいのに」


そんな暴言を吐かれ続けた。

お風呂に入っている最中にお湯を熱湯にされて軽いやけどを負った。

帰る時間が少しでも遅いと家に入れてもらえなかった。

私が兄弟と喧嘩をすると家の隣にある倉庫に閉じ込められた。

テストの点が悪いと兄弟の前で馬鹿にされて笑われた。

お風呂では40度のお湯に1000を数えるまでつからされた。

私の嫌いなものをご飯に出された。


ご飯を少しでも残すと次の日はご飯をもらえなかった。

友達の家に遊びに行くとお腹をけ飛ばされた。


好きになったから付き合って

一緒に居たいと思ったから結婚して

この人と家庭を築きたいと思ったから子供を作って

子供が思い通りにいかないから虐待して

お互いのことを嫌いになったから離婚して

離婚も全部子供のせいにして

また虐待して



「大人は勝手だ」

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