巌編
荒れ地の崖の上にぽっかりと口を開く洞窟の奥深く、行き止まりにただすむ正装の獣がいた。背筋を伸ばし、軽く顎を上げていた。
「どこか、行きませんか?」
彼はそう口にする。すると行き止まりに思えた壁はズズズと盛り上がり始め、岩でできた触手のようなものが一本、現れた。
「テラー、行くゆうても、どこに行くいうんや?」
ぱくりと開く触手が言葉を発する。それは、といい淀む狐は視線を泳がせた。
「それに、この前、海行ったやんか。あのときはテルも一緒やったけど、人、集まらんやろ?」
そうですね。
「行きたいんなら、好きなように行ったらええよ。あたしゃここで待っとるから、いつでも帰ってきぃな」
ぱくぱくぱく。触手が開閉する。
「……母さんと一緒に行きたいんですよ。どこかへ」
再び、岩の壁が動いた。同時に触手はどろりと溶け、地面に吸い込まれていく。山の姿をとった洞窟の主が現れる。
「やったら、行く場所くらい探してきぃや。あたしはあんたが選んだやつから選ぶ方がええ」
ぐいと彼との距離を詰めた瞳は、相変わらず無表情だ。
「では、一つ、教えていただけませんか」
牙、腕も、爪もないドラゴンは、うん、と。
「あなたの故郷に行ってみたいです」
少しの間もなく、別にかまわんよ、と答えが返る。きょとんとする獣だったが、続けられる彼女の物語に、耳を傾けるのだった。
◆◆◆◆
作者もとらべる中です。
なので今日は短めに!!
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