竜王編

 竜の王は、陽の光を浴びながら目を閉じていた。白の衣ではなく、私服らしい明るい色の生地一枚の服で、木張りの床の上でうつ伏せになって。

 時折、太い尻尾が振るわれ宙を薙ぐ。彼から逃がすように隅に配置された家具には数枚の汚れた皿が乗っており、乾いてこびりつき始めていた。

 窓から差し込む光が移動すれば、薄ら目を開いて追いかける。この先に家具はない。

 と、ゴンゴンと戸を叩く音が響く。繰り返し鳴らされるそれに、開いているぞ、と王はうなった。すると戸はガラリと開かれ、私服姿の騎士が姿を現す。

「グゥレイズ様ー、訓練につきあってくださいよぉ」

 黒の目と髪を輝かせるデイル。青年は大股に主に近づき、持っていたなまくらでその背中をつついた。頑強な鱗に薄い線が刻まれる。

「黙れ。折角の休息に押し掛けてきたおまえら兄弟に、付き合う義理はない」

 独り空を飛んである村にやってきた王は、しばらく前に休暇をとった二人と、その同居人に遭遇する。いわく、騎士としてではなく傭兵としてやっていけるかどうか、武者修行の一環でやってきたというのだ。

「なに言ってるんですかぁ。王の食事とか、掃除とか、代わりにやって差し上げてるじゃないっすかー」

 勝手におまえらがやってるだけだろ。ぎろりと瞳孔が開いた。おおう、とわざとらしく後ずさった彼は玄関近くに置いてあった椅子に腰かけて、なまくらを揺らした。

「そもそも、どうしておまえはなまくらを持ってる? 傭兵にそんなものは要らないだろう」

 もっともな問いに、弟との訓練用に、との答え。舌打ちする王はなおも動かず、日光浴に勤しむ。

「そもそも、グレイズ様、あなたがこんなとこに小屋を持っていたこと自体、驚きですよ」

 返事はない。

「たまーに姿を消すことがあるのは知っていましたけど、まさか一日中、ぐうたらするためだったとは。真面目なあなたのその姿を絵にしても、誰も信じてくれないでしょうね」

 にやにやとする青年はなまくらを床に置いて、両の手の親指と人差し指で長方形をつくり、王を内に収めて覗き込む。

「たまには独りで休ませろ。おまえらの訓練含め、俺の体力も有限なんだ」

 ふーん、とつまらなさそうな騎士は立ち上がり、ごゆっくり、と一言残して出ていった。運がないな、と呟くも、まだまだ彼は寝たりないらしかった。


◆◆◆◆


 鱗類の貴重な日光浴シーン。おそらく白い影響で体温が上がりづらいのかと。


 訓練キャンプをしているようなイメージもありましたが、思えばグレイズ様って、食事以外に休憩シーンないんですよね。

 だからこんなになりました。

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