紅編
温泉に行こう、なんて、どうして急に言い始めたのかしら。昼間に帰ってくるなり、旅行に行こう、と自室で小説を読んでいた私を驚かせた。
いきなり何、と降りて聞いてみると、いい場所があるんだ、と尻尾を小刻みに揺らしながら眩しいくらいの笑みを浮かべてた。
何しに行くの、温泉に入ろ。なんで、たまにはいいじゃん。シェーシャとかインスとかと行ったら、なんでそうなるんだよ。
しつこく食い下がる彼に付き合うことになったきっかけは、その行程に本屋が組み込まれたから。もちろん、こいつのおごりで。
で、当日になって馬車と徒歩で半日。もっと近場らしかったんだけどって息を荒らげながら言ってたけど、もしかしてこれトレムから聞いたのかしら。そりゃぁ、徒歩だと遠回りよね。
宿に到着した頃には、予約していたという時間はとうに過ぎていた。私も、滅多に歩き回らないものだから部屋に通された直後、整えられた寝床を見るなり倒れこんだ。ベッドも以外と気持ちいいかも……ただ、首が痛くなるわね。仰向けになっても下半身が息苦しいし、横でも同じ。
彼は彼で、疲れたぁ、とぼやきながらも荷物をおいて出ていってしまった。温泉、温泉、と身体をくねらせているあたり、ご機嫌なのが分かるけど、途中で気絶したりしないでしょうね。そうなったら全部、おごらせてやる。
ふと、左手首のブレスレットに目が行く。さらに視線を部屋の出入口に向ければ、同じものが彼の鞄につけられている。
なんでこんなもの、渡してきたのか。
きっとこれは、あれだろう。恋人だとか、婚姻とかの。別に私はあいつのこと、好きとか、そういうのはない。あるとすれば、うるさい同居人。ヴィークに支払うお金が減るから、都合がいいから住まわせたつもりだったけど。
ジーダみたいな強引なやつと違って、ずっとこっちの顔色を伺うようなやつ。
少なくとも、あいつよりかはずっといい。迫ってこないし、贈り物とか、頼んでないのに渡してくることもないし。
あと、いい暇潰しができるし。
気がつくと部屋には陽が差し込んでいた。
重い身体をベッドから起こして隣を見やれば、リエードがいる。無事、戻ってきていたらしい。
「今日は休憩で潰れちゃうかも……」
それはそれで、いいかもしれない。
◆◆◆◆
旅行って、行き来に体力使いますよね。
帰ってから休むか、すぐに休むか……あなたはどっち?
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