第23話

親父が部屋を出て行って、しばらくたった頃、植田さんと一緒に、彼女が戻ってきた。

「じゃあ、僕はこれで」

「はい、ありがとうございました」

部屋を出る時に何故かウィンクをしていったのが気になるが、植田さんが、部屋から出ていったことで、俺は彼女と二人きりになった。

そして彼女は、少し照れくさそうに口を開いた。

「あ、あのさ、海斗くん」

「うん」

「手紙、読んでくれた…?」

彼女は顔を真っ赤にしていた。

「あ、うん。読んだよ、ありがとう」

「えっ?」

「いや、俺さ、なんやかんやで君のことあまり知らなかったからさ、あの手紙で少しだけ朱音のこと知れて、嬉しかったんだよ」

「あ、そ、そうかな…」

「それと、最後のやつのことなんだけど」

彼女の顔がさらに赤くなる。

「あ、いや、ごめん。やっぱりあれなしで…」

「俺も好きだ」

彼女がまだ話している途中で、俺は告白をした。

「えっ?あ、あの…今なんて?」

「俺は、君が好きだ、朱音」

「ほ、本当に?」

「ああ、だから、俺と一緒に来て欲しいんだ。でも、聞かせて欲しいんだ。きもの気持ちも…」

「そんなの…」

彼女は、俺の目をまっすぐ見てこう言った。

「私だって、好きに決まってるじゃん…あんなことされたら、誰でも意識しちゃうよ?」

「本当か?」

「嘘なんてつかないよ、私は、海斗くん、あなたが好きです」

「そっか…よかった…」

「泣かないでよ、私の彼氏なんだからさ」

「うん…」

佐倉海斗、生まれて初めての彼女ができた。その子は、俺とは生きてる時代が違くて、人に気持ちを伝えるのが不器用で…

でも、誰よりも強くて優しい、そんな女の子だった。

これから彼女は、知らない世界で生きていくのだ。

それはもちろん大変なことだと思う。

でも、大丈夫だ。

だって、彼女は言ってくれたのだ。「あなたと一緒なら、乗り越えられる」って


「それで、どうやったら未来に帰れるの?」

一世一代の告白の後、彼女がそう尋ねてきたので、俺は彼女に未来に帰る方法を教えた。

「強い意志かぁ…」

「うん、俺がこっちに来た時も同じ方法だから、間違ってはいないんじゃないかなって思う」

「そうなんだ、なるほどね」

「こっちの世界でしかできない、みたいな心残りなことはない?例えば学校とかは向こうの世界でも行けるけど、友達とかには、もう会えなくなっちゃうわけなんだけど…」

俺はそれが、どうしても心配なのだ。おそらく、彼女なら俺に気をつかい、大丈夫だよ、と言うだろうが、これはかなりきついことだと思う。もし俺が彼女の立場だったら、どうなんだろうと考えてしまう…

「そのために、今日は家族とかのもとに行ってきたのよ?親たちも。最初は混乱してたけど、私を助けにきてくれたのは彼だったって言ったら私たちじゃもう潮時かなって言ってたし」

「そ、そうか…」

正直、その言葉は親としてどうなのかとも思う。

親だったら、子供を最後まで見てやるもんだと、個人的には思っているのだが、それを未来に連れていく張本人が言うのもなんだと思ったので、これは黙っていることにした。

「友達にも、会ってきたけど、みんな応援してくれたよ。会えなくなるのは寂しいけど、頑張ってねって」

いい友達だ。ちょっと連絡をしなかったぐらいで友達をやめるだの、勉強を教えてなどと言って、都合の良い時だけ利用したりするのは友達じゃない。たとえ、十年、二十年会えなくなったとしても、お互いに、相手のことを考えて、想ってやれるのが本当の友達なんじゃないかなと思う。

「いい友達だったんだな」

「うん…、これからも、友達だよ」

「…そうだな」


これで、彼女の未練はなくなったはずだ。

もうこの世界でやり残したことはないはずだ

俺は、植田さんや、天野さんなど、この世界でお世話になった人たちに挨拶をした。

それに対して、

「ありがとう、未来でも頑張って!」

みんな、優しい言葉をかけてくれた。本当に、この時代にはいい人が多かった。本当は、もう少しだけここに居たいと思う俺がいる。

それでも、俺は彼女と一緒に未来に帰る覚悟を決めたのだ。

「じゃあ、一緒に未来に行こうか」

「うん」

明かりを消し、ベットに横たわる。

すると、少し離れた場所にいた彼女が俺のベットに入り込んできた。

「えっ?ちょっ…朱音?」

「あのさ…、手、繋がない?」

繋ぎたい、もちろん繋ぎたいのだ!だが、女の子と手を繋いだことなんてないこの男子高校生に、その言葉は反則だった。

「だめだ…朱音…」

「えっ?どうして?私たち恋人だよね?」

「可愛すぎて直視できない…」

なんでこんなことが口から出るんだ、童貞と言う生き物は…

そんなことが言えるなら、手ぐらいパッと繋げばいいのに…

「そ、それは反則…」

彼女は顔を埋めてしまった。どうやら彼女も恋愛経験はあまりないようだ。それなもにもかかわらず、「手、繋ご?」とか言えるんだから女の子って怖いなぁとしみじみ思う…

そして、俺は男の子である。ここで決めなければ、一生ヘタレの刻印が押されてしまう…それだけは回避しなければ!

「手、繋ごうぜ?」

「うん…」

なんかいつの間にか立場が逆になっている気もするが…まぁいいだろう。これでも頑張っている方なんだから。

彼女と手を繋ぐというのは初めてというわけではないが、こうやって、恋人として繋ぐのは初めてだった。

女の子の手というのは、よく柔らかいとか小さいなどと言われることが多いが、俺が最初に思った感想はこうだ。

とても、綺麗だった。

男の俺とは全く違う、綺麗な手を彼女はしていた。細くて長い指や、きれいな曲線のラインが、彼女の体温とともに伝わってきた。

「手、大きいね、海斗くん」

「まぁ、一応、男だからね」

彼女は俺の手を両手で包んできた。

「なんか、すごい落ち着くかも…」

すぅ…すぅ…と横から寝息が聞こえる。

嘘だろ?もう寝ちゃったのか?

当然、横で好きな人が寝ているところで寝れるほど、俺のメンタルは強くなかった。

かと言って、寝ているのをいいことにあーんなことや、こーんなことをする度胸は当然俺にはないため、そのまま何もできなかった。

それでも、人はいつか眠くなるものだ。しばらくすると、俺はようやく眠れそうな気がした。

「あ、やっと、寝れる…」

これで、この世界ともお別れだ…

俺は、強く未来のことを願いながら、眠りについた…

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