第22話

「わ、別れるって…」

その考えは、今の俺にはなかった。彼女と一緒に未来に行くことばかりを考えて、その先のことを、考えていなかったのだ。

「彼女のことを、お前が好きなことは知っている。そして、お前もその手紙を読んだんだろう?なら、わかっているはずだ。お前と彼女は両想いなんだ。カップル成立だ。おめでとう」

「あ、ありがとう…」

素直にお礼を言っておくことにした。

「だが、高校生のカップルなんて、八割以上は半年ともたずに別れてしまうものだ。もし、お前と彼女が未来でそうなってしまったら、彼女はどうやって生きていけばいいと思うんだ?」

「そ、それは…」

「お前が連れて行こうとしている場所は、この世界のどこにもない、未来なんだ。お前には、その覚悟があるのか?」

「覚悟…」

「彼女を未来に連れていくってことは、彼氏彼女になるような、そんな簡単なことじゃない。一生一緒に生きていくと思うほどの覚悟が必要なんだ。それを俺は伝えにきた」

「でも、どうして父さんが…?」

「実はな、昨日、姫川さんから相談を受けたんだ」

「相談?でも。昨日は取調室にいたんじゃ?」

「ああ、あいつらなら、意外と早く白状してくれたよ。まぁ、それはあとで話そう」

「わかった」

「それで、彼女から受けた相談なんだがな…」

「ああ」

「彼女は、本気で未来に行きたいと思っているぞ。多分、お前が思っている以上にな」

「そうなのか?」

「ああ、彼女はお前の話を聞いた時から、未来に行こうと思っていたみたいだ。今日だって、植田と一緒に家族たちのもとに会いに行ったのは、この世の未練をなくすためだそうだ」

「ほ、本当かよ…」

この世の未練…

彼女は、この世界を去るのが怖いと言っていた。だが、それ以外にも、きっとこの世界には、まだまだやり残したことがあるんだろう。そして彼女は、できるだけ、今解決できることだけを無くして、俺と一緒に未来に来るために、頑張ってくれていたのだ…

「だからな、海斗。お前も覚悟を持て。彼女を連れていく覚悟を。今、息子であるお前がいるということは、俺も近いうちに、一生添い遂げる人を見つけるってことだ」

そうだ。

親父はこの時はまだ独身だ。だが、四年後には、俺が生まれているのだ。だから、親父も、覚悟があるってことなのだ。

「こんなことを俺がいうのもなんだと思うが、一応、警察的には、この事件を解決したのは、俺と、植田ということになる」

「そっか、ありがとう。俺のことを、隠してくれて」

本来、俺はこの世に存在しない。そんな奴が捜査に協力どころか、解決のために色々したとばれたら、本当に大変なことになってしまう。親父は、それを隠してくれたのだ。

「だから、彼女のことは、頼んだぞ!」

「ああ、任せてくれよなぁ…」

親父から託された思いを、俺は受け止めるのに必死だった。

でも、そのおかげで、少しだけ、覚悟ができた気がした。

「そして、最後に、藤原たちから聞いたことなんだが…」

「ああ、聞かせてくれ」

少しだけ、本当に少しだけ彼女と一緒になる覚悟ができた俺にとって、その話を聞くことには、特に覚悟はいらなかった。

「やはり黒幕は山崎という少年で間違いなさそうだ。どちらかというと、彼らも被害者と言えるだろう。協力しないとある写真を世間に回すとまで言われていたらしい」

うわー、あいつ趣味悪いなぁ…。可愛い女の子を写真で脅すというのは、よくある感じがするが、まさかおっさん相手にもその手を使う奴がいるとは…一体どんな写真だったんだろう。少しだけ気になるような…

あ、あかん。これでは俺が変態みたいじゃないか!

一旦、気持ちをリセットしなくては…

深く深呼吸をして、俺は気持ちを整えた。

「それで?」

「今回も、警察に捕まったら自分のことは絶対に言わないように言われていたらしい。自分だけ、逃げるつもりだったわけだ」

「なんて野郎だ…」

だが、そのおかげで様々なことが理解できた。

まず、彼女が言っていた、自分は性行為をされなかったということ。あれは、犯人のうち、二人が、無理やり協力させていたからだったのだ。つまり、藤原と細野には、元々、協力はしていたが、彼女を傷つけるつもりはなかったということだ。

そして、彼らがなぜ犯罪を犯したか聞いた時に言っていた、あまりにも理不尽な理由や、山崎のことを話すことを躊躇っていたわけ。

それらは全て、山崎に脅されていたからだったのだ。

「だが、あいつらの言葉だけを信じるというのもおかしい。これは、ちゃんと本人の意見も聞かなければならないな」

「ああ、そうだな…」

それは当然だ。これは直接本人に聞かなければならない。もしこれが本当だったら、絶対に許さないと思うが…

「だが海斗、お前には時間がない。お前が一番に考えなくちゃいけないことは、彼女と一緒に、未来に帰ることだ。わかっているな?」

「お、おう」

「山崎は、お前が帰った後で、俺たちが捕まえることもできるが、お前の場合は取り返しがつかなくなる場合がある。それを、しっかりと考えるんだぞ。俺たちに、任せていいこともあるんだ」

「そうだな…確かにそうかも」

任せていいことだってある。俺はこの世界に来てから、一人で何かをやると失敗している。

だから、今回ぐらいは、親父たちに任せてもいいのかもしれない…

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