第16話

「えっと、どういうことか、長くなってもいいから説明してくれるかな?」

「は、はい。実は、俺が未来から来た理由は、彼女を助けることなんです。彼女を助けないと、俺は未来に帰れなくて、しかもそれにはタイムリミットがあるんです」

「タイムリミットか、それはいつなんだい?」

「二週間です、それで、俺がここにきたのは一日です」

「そ、それじゃあ、あと三日しかないってことか?」

「そうなんです…」

そう、だから俺は焦ってしまった。未来に帰れなくなるかもしれないという恐怖に…

「それで、このままじゃ間に合わないと思ったんですけど、未来の資料なんて信じるわけがないと思ったので、一人で倉庫にいったんです」

その時、植田さんは何かに気づいたように、話しかけてきた。

「それじゃあ、一緒に河原に行こうって言ったのは…」

「そうです、あの倉庫にいくためだったんです。源さんから聞いたってのも嘘です。騙すようなことをして、すいませんでした」

「いや、こっちこそ、気づけなくてごめんね。あの時倉庫に一緒に入っていれば、君もこんなことしなくて済んだのに」

「そんな、植田さんのせいじゃありません。それに、こんなこと、なかなか言い出せないですし」

「どうして夜に行ったんだい?夜中なんて下手したら殺されていたかもしれないんだよ?」

「いや、実は、昼に、倉庫に盗聴器をつけておいたんです」

「盗聴器?」

「はい、それで、こっちに戻ってからずっと聞いてたんですけど、何も聞こえなくて、やっぱり倉庫は関係ないのかと思ってた時、いきなり音が聞こえてきて、男たちの笑い声が聞こえたら、いてもたってもいられなくなって、それで、気づいたら、飛び出してました…」

「なるほど、とりあえず、勝手に盗聴器などを使ったことや、勝手な行動をしたことを起こりたいところだが」

「す、すみませ…」

親父はふっと笑うと、

「まぁ、それは未来の俺に任せるとしよう。俺は君の父親らしいからな。このことに関しては、警察官としてではなく、父親として、未来で叱らさせてもらおうか!」

「…父さん…」

俺は、涙を抑えることができなかった。

「……はっ、う、く……ああああぁぁ……」

「頑張ったな、海斗」

「父さん…父さぁぁぁぁぁん!」

また泣いてしまった。

弱いな、俺は…

でも、この涙はあの時の涙とは別の涙で…

泣くたびに心が軽くなるような、親父の胸の中で…

二十年前の父さん、まだ彼にとっては、俺は息子じゃない、でも、俺にとっては父親だ。そんな矛盾している関係の中で、俺は子供の時に戻ったみたいに泣き続けた…


「すいません、取り乱してしまいました…」

しばらくして、泣き止んでから、冷静になってみると、かなり恥ずかしいことをしてしまったことを自覚する…

どんな理由があるにしろ、高校生が、警官の胸で泣くなんておかしい。黒歴史というやつだ。でも、俺が生きている時代のことじゃないなら、ノーカンではないか?時間遡行万歳!

「もう大丈夫だって、それより、これから、私は君をなんて呼べばいいかな?海斗くんのままでいいかい?」

「あ、はい、それでお願いします」

いくら親父とはいえ、まだこの人にとっては息子じゃない。いきなり呼び捨てはきついだろう

「俺はなんて呼べばいいですかね?さすがに父さんとかはあれなんで、他になにか…」

「そうだなぁ…、名字はかぶってるしなぁ…」

「海さんでいいんじゃないですか?」

提案をしてくれたのは植田さんだ。

「いいですね!そうします。ありがとうございます、植田さん」

「いいよ、お礼なんて」

「じゃあ、改めてよろしくお願いします。海さん」

「こちらこそよろしく、海斗くん」

こうして俺は、二十年前の父の信頼を得ることができた。俺の、いや、俺たちの時代を超えた物語が、ここから始まるのだ。


「それで、どうやって彼女を見つけようか」

「あ、それなら大丈夫です。彼女に発信器を持ってもらったので」

「発信器?」

「はい、この部屋にあった発信器です」

「全く、君は色々と勝手にやってくれるね、これは将来教育の仕方を変えないとかな?」

しまった。いくら何でも勝手に使いすぎたか…実は催涙ガスなんかも使ってましたなんて言ったら、今度こそ、ここで怒られるかもしれない。これは黙ってたほうがよさそうだ。

「や、やめてくださいよ。俺が俺じゃなくなっちゃいますから!」

「ははは、それもそうだな」

「それで、海斗くん。発信器はどうなってるんだい?」

親子の会話を止めてくれたのは植田さんだ。俺は本当にこの人にいろいろ助けられている…

そう言われると、助けてもらってばっかだな、俺…

「今、確認します。えーっと…」

パソコンを使い、発信器の位置を探す。

そして、画面に表示された地図の一箇所が光る。

「出た!ここは…、長野県?」

「何だって?」

「長野だと?」

地図は確かに長野県を指していた。

あれから一日以上経っているので、遠くに行っていることは予想していたが、まさか県外まで行くとは…

大人って恐ろしいな…

「よし、すぐにながのに行くぞ!」

「了解!」

そういえば、この人たちも大人だった…

大人は行動力がすごい。高校生の、コンビニ行こうぜ!のノリで長野に行くのかこの人たちは…

「は、はい!行きましょう!」

とりあえず、このノリにはのっておこう。

「海斗くん、そのパソコン持ってきて」

「わかりました!」

「よし、行くぞ!」


「おおっ…」

佐倉海斗、生まれて初めて、覆面パトカーに乗る。

「すごいっすね」

「そうか、覆面パトカーは初めてか」

「そうなんですよ」

「まぁ、普通に生きてたら、乗る機会なんてないもんな」

覆面パトカーの中は刑事ドラマでよく見るような、道具がいっぱいだった。例えば、無線機とか、サイレン出すボタンとか、無線機とか…無線機って二回言ったな…

まぁ、とりあえず、男の子の興味を引くようなものがいっぱいだった。

そして俺は、ずっと謎だった未来の資料についての話をした。

「未来の彼女の資料に写真がなかったのは、藤原たちが渡さなかったからなんですね?」

「ああ、いくら言っても写真だけは渡さなかったんだ。くそっ!あそこで気づいていればなぁ」

その時、植田さんが発信器の位置を特定した。

「佐倉刑事、どうやら、長野の松本市で間違いなさそうです!」

「松本か、なかなか見つけにくいところにいやがるんだな」

「あれ?二人は犯人グループのこと知ってるんですか?」

「いや、知らん。三人組ってことだけだ。そうだ、今教えてくれ、犯人たちはどんなやつなんだ?」

「はい、わかりました」

俺は、犯人が彼女の学校関係者の警備員の藤原、担任教師の細野、そして、彼女に片思いをして振られた山崎だということを説明した。

「なっ?あいつらだったのか!それじゃ海斗くんの予想は当たってたんだね。それじゃあ、何で警察に事件のことを話したんだろう?」

「ああ、それなら、最初にあった時から、俺がただの高校生じゃないってあの警備員はわかってたらしいです。それで、俺のことを調べるために、事件のことを説明したらしいです」

「何で君がただの高校生じゃないってわかったんだい?」

「俺が、事件のことを知ってたからですよ」

その言葉で、二人とも察してくれたらしい。

「なるほどな、確かにそれは不自然だな。それなら俺を呼んでくれればよかったのに」

確かにそうしたかった。俺の最初の予定ではそうなっていた。

だが、それができなかったので、俺には、ああするしか方法が見つからなかったのだ。

「それができてたらこうなってませんって」

「確かに、それもそうだな」

「それで、その後は?」

「色々戦ったんですけど、相手が三人だったのもあって、彼女に発信器を持たせるのが精一杯でしたね…」

その時、植田さんが急に思いついたような顔をした。

「そうだ、海斗くん。姫川さんってどんな人だった?」

「どんなって、どうしてですか?」

「だって、一目惚れしてたじゃん!」

「ブフォ!」

思わず吹き出してしまった。

そういえば、初めて彼女の写真を見た時に「可愛い…」とか言っちゃったんだっけ…

「何だと息子よ!早すぎるぞ!生まれる前から恋なんて!」

「そりゃそうだろうね!」

タメ口でツッコんでしまった。

なんか懐かしく感じるな、このノリ…

「ふっ、恋の力はすごいな!」

何かの映画のクライマックスで流れたセリフに似ているな…

「もう、そういうことにしといてください…」

「で、結局どうなんだい?」

もうここまできたら開き直るしかなさそうだ…

「そうですね、実際彼女を助けにいって、ちょっとだけ話したんですけど…」

「うん」

「改めて、惚れなおしました。彼女のこと。俺、心から彼女のことが好きみたいです」

言ってしまった。自分の気持ちを赤裸々に。親父とおじさんの前で…

「おおう…言うねぇ…」

「すごいな、俺の息子は…」

思ったより反応がヤバイ…

そう思うと、急に恥ずかしくなってきた…

「あ、いや、すみません…やっぱり、今のなしで…」

「いいじゃないか」

「へっ?」

何故か、親父は嬉しそうだ。

「それぐらいの気持ちがなきゃ、女の子はついてきてくれないぞ。俺もその気持ちが欲しいくらいだ」

「どういうことですか?」

「俺たちは今から、命をかけて、彼女のことを好きいに行く。それには中途半端な気持ちじゃ駄目なんだ。それには、今の君ぐらい、純粋で強い気持ちが必要なのさ」

「なるほど」

「多分彼女も、俺たちより、君に助けられたいだろうな。一度は助けているわけだし、そのほうが、君の恋も実んじゃないか?」

だが、その時、大きな問題に植田さんは気づいた。

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