第15話
八月十一日
「…海斗くん…」
「…海斗くん…」
誰かの、声がきこえる…
何故だろう…?何故かとても懐かしいような気がする…
あれ?俺、どうしたんだっけ…?
彼女を助けに行って、あいつらに見つかって…
それで、それから…川に飛び込んで…
そっか…
俺、死んだのか…
約束、したのにな…
「海斗…!」
「海斗…!」
じゃあ、この声は何だ?なぜか懐かしい気がする、この声は…
誰かが、呼んでいる?
「海斗ぉぉぉ!」
「はっ!」
目を覚ました。生きてる。死んでない。俺は、まだ死んでなかった。
「あっ!よかった!海斗くん!」
「植田さん…」
「大丈夫かい?」
「親…、佐倉刑事」
そこには、親父の姿もあった。どうやらここは病院のようだ。俺はベットに横たわり、人工呼吸器が付けられていた。
「これは、一体…」
俺は人工呼吸器を外しながら、体を起こした。
「海斗くん!」
「は、はい…」
「あれだけ一人で危険なことはしないでって言ったのに!どうしてこんなことを…」
植田さん怒っていた。当然だ。この人は俺を心配して、注意をしてくれていた。それなのに俺はその注意を無視し、一人で飛び出した。そして、危険な目にあったのだ…
「本当に、すいませんでした!」
今は、謝ることしかできない。
「まぁ、本人も反省しているんだ。それぐらいにしてやってくれ」
「佐倉刑事…」
「俺も、彼には色々と聞きたいことがあるしな」
植田さんを止めたのは親父だった。
「海斗くん、いくつか君に聞きたいことがある、いいかな?」
「は、はい。大丈夫です。あ、でも俺からも聞きたいことがあるんですけど、よろしいですか?」
「ああ、かまわんが?」
「今日は何日ですか?」
「八月の十一日だが…」
「そうですか、ありがとうございます…」
「日にちがどうかしたのかね?」
「あ、いや、別に…」
時計は七時半を指していた。日が明るいから午前だろう。つまり俺は一日以上気を失っていたことになる。くそっ!貴重な一日を使ってしまった…
「じゃあ、私からも、聞かせてもらうよ?」
「はい」
「早速なんだが、君の正体が知りたい」
「……へっ?」
あまりにもストレートな質問に俺はフリーズした。正体とはどういうことだろう?まさか、俺が未来から来たことを気づいたんだろうか…
「あの、正体というのは…」
「そんなに怯えなくてもいいんだよ?君、これを部屋に残して外に出ただろう?」
親父が持っていたのは、俺が部屋に置いていったもの…
俺が、未来から持ってきた、親父の資料だった。
「それは…」
「これは間違い無く私の字だ。だが、私はまだここまでこの事件は調べられていない」
「ですよね」
「改めて聞こう、君は何者なんだ?」
もはや、俺の中に選択肢は一つしかなかった。自分は未来からきたと。たとえ相手が信じなくても、言うしかない…
「俺が、どんなことを言っても、信じてくれますか?」
「こんなものを持っているんだ。君が普通の高校生ではないことはわかっている。信じるよ」
「ありがとうございます。実は、俺は、今から二十年後の未来からきたんです。その資料を持っていたのは、俺が、佐倉刑事、あなたの未来の息子だからなんです。」
言ってしまった。全て。未来から来たことも、俺が息子であることも。
「えっ?未来って、ええっ?」
植田さんは驚きを隠せていなかった。
だが、親父は、
「なるほど、息子か…」
「えっ?驚かないんですか?」
親父は、すごく落ち着いていた。
「いやー、未来から来たぐらいは予想していたが、まさか息子だったとはね!それにはさすがに驚いたよ」
「はぁ…」
「だが、君は未来から来たと言わないと納得しないほど、色々と不思議なことをしている。それに関しては驚かない、信じるよ」
「本当ですか?」
信じてもらえた。あれだけ無理だと思っていたことが、こんなにもすんなりと…
「でも、どうして僕の場所が?」
俺を病院に運んできたのは間違い無く親父たちだ。
「発信器、起動したでしょ?」
「えっ?」
「トランシーバーにつけておいたやつだよ」
「あっ、はい」
俺は窓から飛び降りる瞬間、植田さんのトランシーバーについていた発信器を起動したのだ。
親父たちは、その位置をもとに、俺を探しにきてくれたのだ。
「そして、この資料の倉庫の場所に赤で線を引いていっただろう?」
「はい、しました」
「この資料、その部分だけが新しかったんだ、まるでその日に付けられたぐらいね」
「ああ、伝わったんですね」
「朝、植田から緊急の発信器が起動していると連絡があってね、この資料のこともあったから、倉庫の周辺に何かあるんじゃないかと思い、行ってみたら、君が河原で気絶していたというわけだ」
「なるほど、そういうことですか…」
「さて、次なんだが…」
「はい、何ですか?」
「倉庫で何があったんだい?」
「話すと、長くなるんですが、簡単にまとめると、姫川朱音を見つけて、助けたんです…」
「……」
「……」
「……」
しばらくの間、沈黙が続いた。
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