第7話

三日後…

八月六日

あの謎の残った学校訪問から三日後、俺はひたすらに考えてみたが、さっぱり答えはでそうになかった。

何故あの警備員は嘘をついたのか?本当に警備員だけが嘘をついているのか?その嘘にどんな意味があるのか?

考えれば考えるほど、分からなくなっていった。

「一回まとめてみるか…」

俺は一回、話を整理してみることにした…

プリントを出して、一つずつ書こうとしたその時、

ガチャッと音をたててドアが開いた。

「少し良いかな」

その声は聞き覚えがあるけれど、少し違うような違和感があるような、不思議な感じがした。

「こんにちは。佐倉海斗君。姫川朱音さんの事件について何か知っているって子がいるってことで飛んできたんだけど、それは君のことだよね?」

「は、はい。そうです…」

「私は佐倉海、よろしくね」

そこには二十年前の、現在よりもだいぶ若くて、かなりイメージは変わっているけれど、はっきりと親父だとわかるような、不思議な感覚だった。


二十年前の父の姿が、そこにはあった。


「どうも、佐倉海斗です」

「へぇ、同じ苗字なんだね」

それはそうだ。俺は未来の息子なんだから。まぁ、そんなことは、今は信じてくれないと思うが…

「そうですね…」

「じゃあ、早速なんだけど、君の知っていることについて教えてくれないかな。他の人は別の事件に行ってしまっているから、実質、この事件について調べているのって、俺ぐらいだから情報が足りなくて困ってたんだよね」

佐倉海は俺に目を見て言った。

「もちろんです。俺はそのために来たんですから。でも、その前に、ひとつだけ確認させてもらっても良いですか?」

「ん?なんだい?」

「佐倉刑事は、タイムスリップとか、未来人って信じていますか?」

この質問には二つの意味があった。

ひとつは、俺がどこまで話せるのかを確認するため。

そしてもう一つは、この人が一人の、過去の協力者なのかを確認するためだった。

もしこの人が協力者なのであれば、俺が未来人だと言っても信じてくれる可能性がある。

「基本的には信じていないけど、最近はそんなものにも頼っているよ。誰かの警備を優先して、今助けが必要な人を救おうとしないなんて、おかしいと思うんだよね」

「なるほど、わかりました」

どうやら一人はこの人で間違いなさそうだ。だが、ここで俺が未来人だと言ったら、一気に信用が落ちてしまう可能性もある。なんせこの世界では俺たちは初対面なのだ。姫川朱音を助けるためにも、今は思い切ったことは言わない方が良さそうだ。

「それじゃ、話を戻させてもらうよ。君がこの事件について知っていることを教えてくれるかい?」

「はい、えっと……」

言葉が出なかった。

俺が知っているのは植田さんと調べた彼女の周囲のことと、親父が過去に調べたことだけだ。恐らく、彼女の周囲のことは彼も知っているはずだ。つまり、俺が未来人であることを信じてもらわない限り、俺は彼にこの事件について語ることはできないのだ。

「どうしたんだい?言い出しにくかったりするかい?」

どうすれば良いんだ?俺は考えた。このままでは彼女の命が救えなくなってしまう。だが、こうして黙り込んでいても、何も進まない。

「あの…、すいません。ちょっと、日を改めても良いですか?」

佐倉刑事は少しの不思議な顔をしていたが、

「わかった。落ち着いたら、職員に連絡してくれ。いつでも来るからさ!」

親父は俺のよく知っている、下手な作り笑いをしていた。

そんなの当たり前だ…。本気で、一人で人を助けようとしていて、そこにようやく情報提供者が現れたというのに、肝心の提供者が、何も言わなかったのだから…

窓を見ると、ちょうど雨が降ってきた。ようやく親父に会えて、なんとかなるかもと晴れた心に降るような、音の痛い雨だった…

残り時間は、あと八日


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