第3話 おそろいのもの
「先輩って、ガチャガチャ派ですか。それとも、ガシャポン派ですか」
帰りの道の途中にある薬局の脇に置かれていた、子供の時には随分魅力的に映った、硬貨を入れるとカプセルが出てくる例の機械の前に腰を下ろして、後輩の佐藤はこちらを見ずに尋ねた。
突然の佐藤の問いにほとんど悩むことなく、すらすらと答える。
「カプセルトイ」
「まさかの正式名称ですね」
すぐに正式名称だと気付いたあたり、目の前の佐藤はあらかじめ下調べをしてこの話題を振ったのかもしれない。現に今、佐藤は蚊の鳴くような声で「なんで俺の言っていない言葉を出すんですかあ……」とどこかいじけた様子を見せていた。
普段はどこか飄々としていて掴みどころのない、ちょっと生意気な後輩という印象だけれど、時々見せるこういう子供っぽい姿は、なるほど、部活でマスコット要因として可愛がられているのもうなずける。庇護欲をそそるというか、なんとなく守りたいと思ってしまうタイプ。実際の年齢より幼い顔立ちで、周りからは無条件に可愛がられてしまう立場にあることは、本人が一番知っているだろうから、絶対に口にしてはやらないけれど。
「もしかして先輩の両親がカプセルトイ派だったんですか?」
いつの間にかいじけモードから立ち直った佐藤が、再びこちらに尋ねた。
「いや、ガチャガチャ派とガシャポン派で分かれてた」
「ええ……」
佐藤が呆気にとられた声を出した。そんな声を出されても事実だからしょうがない。
「……小学生の頃、両親それぞれで呼び方が違っていて、本当はどう呼ぶのか調べたことがあった。その時正式名称がカプセルトイだって知ったんだけど、それ以来、家の中でガチャガチャ派とガシャポン派とカプセルトイ派が生まれたんだ」
「……先輩って、昔から不思議な人だったんですね」
苦笑したような佐藤は、鞄のジッパーを開いて小さながまぐちを取り出した。もしかして何か回す気なのだろうか。まだ電車が来るには時間があるし別にいいのだけれど、相変わらず自由な後輩だと思う。
「俺はガチャガチャ派なんですけど、最近のガチャガチャってクオリティ高くて凄いですよね。小学生の時なんて、高くても二百円くらいのガチャガチャしかなかったのに、今じゃ普通に三百円のガチャガチャが置いてありますもんね」
そう話す佐藤の目の前には、二百円のカプセルトイが置かれている。デフォルメされたファンシーな犬のストラップ。そういえば前に犬を飼っているという話を聞いた。犬が好きだから、佐藤は普段からこういうのを見ると回しているのだろうか。
硬貨を二つ入れて、佐藤は右手でカプセルのつまみをひねる。時間差でカプセルの落ちる音が聞こえて、カプセルを機械から取り出す。カプセルを開けた横顔が、どこか寂しそうに目を伏せたのが暗がりの中でもはっきり見えた。
「――ああ、持ってるやつでした。被りがあるかもしれないとドキドキするのもガチャガチャの醍醐味ですけど、まさか二回目で被るとは思いませんでしたね」
佐藤の言葉から推察するに、以前にも一度同じものを回したのだろう。全七種類と書いてあるから、被ったとしても不思議ではないけれど、二回分回して同じ種類を二回引き当ててしまうのは不運と言わざるを得ない。
「先輩、どうぞ」
「……くれるの?」
「いくら好きでも、全く同じものだったらいりませんよ」
「……じゃあ、ありがたくもらっておくよ」
「そうして頂けると助かります」
差し出された手から小さなストラップを受け取る。思ったよりも可愛いストラップに、自然と口角が上がってしまった。
「おそろいですね」と冗談か本気か分からない佐藤の声を聞きながら、もらったボールチェーンがゆらゆらと揺れるのをしばらく見つめていた。
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