第8話 友人
3月中旬の金曜日、源治は翔太と夜勤明けで、某大衆ファミリーレストランでドリンクバーと煙草で疲れを癒している。
「あーあ、なんだよあの糞婆! 殴って犯してぇよ!」
(何言ってるんだろう、この野郎は……)
翔太は、美智子に仕事上での、ほんの微かな汚れがあるだけの清掃不良の事で咎められて散々叱られたのを根に持っており、苛立ちながらタバコをふかしている。
50才をとうに超えている美智子に、性的な欲求を持つ事自体がおかしいんだ、やっぱこいつとは距離を置くべきなのだろうかなと、スマホの出会い系アプリを熱を入れてやっている翔太を源治は冷ややかな目で見つめている。
「なぁよぉ、源治、お前最近なんかおかしくねぇか? ピンサロに誘っても来ないしよ! 明日何で行かないんだよ!? お前好きだったろ?」
「あ、いや……用事があるんだよ、その日は。だから無理なんだよね」
源治は明日、御子柴を交えて母親の春香と会う約束をしているのである。
「お前なんか本当に最近おかしいぞ。やけに、顔が生き生きとしてるし。これでもできたか?」
翔太はキヒヒ、と品の悪い声を上げて、下世話な表情を浮かべ、小指を立てる。
「んな、いねぇし!」
美希との仲を知られたのか、源治はどきりとする、彼等は正志や翔太に内緒でLINE交換をしていて、毎日会話をする仲になっているのである。
「本当はいるだろ!? なぁ! 俺にも紹介しろよ! 最近よぉ、オナニー以外で全然やってねぇんだよ! 明日給料日だべ!? 久しぶりに行こうぜ、抜きてぇんだよ! なぁ!」
「リアルに行かねぇし! 知り合いと会うんだよ!」
こいつは、女をネットの広告に出てくる、エロ漫画の登場人物の性奴隷や肉便器などの性欲を発散する道具だと思ってるんだな、本当にどうしょうもない、モラルに欠けるクズだなと源治は、昔風俗ばかり行っていた過去を棚に上げて冷ややかな目で翔太を見つめて深いため息をつく。
「その知り合いってのは風俗嬢とかなんじゃねぇ!?」
「馬鹿こけ! 母親だ!」
「母親……? 確かお前、孤児だった筈だよな……?」
翔太は源治からは自分は孤児で身寄りがおらず、児童福祉施設の施設長に保証人になって貰い仕事が決まった事しか聞いてはいないのである。
源治は、しまった、こんな奴にあまりプライベートな事は知られたくは無かったなと後悔しているのだが、好奇心が旺盛な翔太は詳しく聞いて、井戸端会議が好きなおばさんのように、談話でのネタにしたいと欲求に駆られている。
「分かったよ、俺の母親は何かな、詳しく事情は分からねーんだけど俺を施設に預けて別の街で働いてて、俺に会いたいって言って来たんだよ。で、明日会いに行くんだよ」
「へー、ドキュメンタリードラマのような話だな。そっか、行ってこいよ、俺は一人でピンサロに行ってくるわ。昼間だとよ、1000円割引なんだよ! ポコちゃんがギンギンでよぉ! やっぱ、右手が友達だとよ、何かつまらないっしょ! 楽しみだなぁ!」
(こんな奴に、母親がシャブ中だったって事なんざ、死んでも言えねー。特に俺が薬打たれて虐待をされていた事なんざな……どこで噂になるか分かりゃしねぇ!)
事実を歪曲して話した内容を、頭が悪く深く勘繰らない翔太はすんなりと受け入れて、三度の飯よりも好きなピンサロに行くのが楽しみだと話しているのを見て、こいつが馬鹿で助かったなと源治は安堵のため息をつく。
「明日用事終わったらよ、正志さんの店に来いよ」
「あぁ、そうだな。終わったらLINEするよ」
源治は、こんな奴でも、話し相手がいて遊び相手になってくれるから、一人で生活のことだけしか考えられなかった時よりかはだいぶマシだなと思い、コーヒーを口に運ぶ。
****
源治はあの後に翔太とパチスロ店に行き、一円パチスロで5000円買って煙草を買って別れ、家にいる。
シャワーを浴びた後の身体は水分が吸収されており、艶やかしい肌艶になっている。
スマホを見やると、美希からのLINEが入っているのに気がつき、慌てて見やる。
『明日お母さんと会うみたいだけど、心の準備はできてるの?』
あぁ、なんか、本当の親友が恋人のように気を使ってくれていて、なんか幸せなんだが悪いような気持ちに襲われるなと源治は思い、うん、と軽く返信を送る。
(母親かぁ……)
人間の脳細胞は容量上の関係から、不要な記憶を排除する仕組みになっているのだが、昔の記憶の中にある親の顔を何故かいまだに鮮明に覚えており、何気に美人だったんだな俺の母親はと源治は思い、美希にLINEを送る。
『明日会うのが終わったら、店に遊びにいくよ。ただ、何時になるかわからないがな』
この美希と言う元短大生の女、仕事が決まってなくて余程の暇人なのか、源治が送ったトークは直ぐに既読になり、無料のキャラクタースタンプでOKと返信がある。
(俺に惚れてるのかなこの子は……いや、水商売だった女だ、金目的なのかもしれない。会社の奴がキャバクラにハマってボッタクリにあったからな、気をつけなければ……でも、何故か、嘘偽りを感じないんだが……)
源治はあれこれと思案に駆られ、美希の顔を思い出し、股間に違和感を感じて触ると、勃起しており、快楽を求める衝動には勝てずに、夜勤疲れにも関わらず、股間を弄り、美希の裸を連想し、どろっと白濁で熱い液体が床に溢れ出て、慌ててティッシュで床に染み付いた精液を拭き取る。
「……俺は、学生、かよ……」
好きな子を連想して自慰行為に走るのは中学生か高校生だな、俺はまだガキってことなのかと、行為の後に必ずと言って良い程訪れる、賢者のような頭が冴え渡る感覚に源治は陥り、それと同時に眠気が襲いかかり、ベットにもぞもぞと入っていく。
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