第29話 Good morning ,the bad day
「・・・ふわぁーあ」
「あ、おはよ」
格子の隙間から朝日が差し込み、アリスを照らす。
「起きてたのか?」
「うん、目が覚めちゃって」
少しはにかみながら答えるアリス。その手には小鳥がいた。アリスと同じ金色の羽をした小鳥だ。
「今朝、枕元にとまっててさ。人なつっこいの」
指先を飛び跳ねるように移動する小鳥。時折パタパタと宙を舞ってはアリスの手の内へと戻って来る。
「ふふ、気に入ったのかな」
純粋、という言葉だけじゃ足りない程に綺麗な笑顔が、シンの胸を貫いた。胸の高鳴りが止まらない。
今日は何をしようか、そう考えるシンの耳にザザッというノイズが走る。
『・・・ン!シン!聞こえるか!?』
「!!」
耳に飛込んでくるクロウの声。一瞬で意識が切り替わる。
「悪いアリス、少し静かにしてくれ」
アリスが頷くのを見て、シンは耳に付けた機関の会話機器を出し、通信会話を開始する。
「どうなさいましたか、ボス」
『そちらに向けて国軍が動いた。しかも・・・』
「・・・なんですか?」
アリスが不安そうにこちらを見ている。シンは動揺を隠しつつ、押し殺した声で聞き直す。
『・・・元、通称第四部隊だ』
「・・・冗談だろ」
通称ではあるが、国軍の部隊には様々なランクが付けられる。
中規模部隊の中でも上から四番目に強いとされるのが、第四部隊だ。
「しかし、元というのは?」
『全員、スイサ西側の街での反乱を治めに行って見事に敗走、つまる所脱走兵のような者だ・・・』
冷や汗が一筋流れる。
(俺はここに残ってアリスを護るべき?いや一人で中規模部隊・・・約50名を一人で捌けるのか?しかし俺がやらなければ・・・)
『・・・大丈夫だ、今お前の同期が向かっている。もっとも、お前が一番火力高い訳だが』
「・・・問題ないっすよ」
『奴らは武勲を挙げて堂々と戻る気だ、そう簡単にはいかないぞ』
「了解です」
一度通信を切り、アリスの方へと向き直る。
「・・・アリス、これからここに国軍が来る」
アリスの瞳が収縮する。不安が滲み出た表情で、シンを見つめる。
「ここから逃げないと、君まで傷つく・・・逃げよう」
「でも・・・でも!」
アリスが、少し声を荒げながら言う。
「私は、どこに行けばいいの・・・?お母さんにもお父さんにも棄てられて、誰にも必要とされていない、私は、どこに行くの・・・?教えてよ・・・!」
涙が溢れていた。言葉尻は掠れ、力なくて。シンにすがりつき、零れた涙がシンの服にシミを作る。
それなら、と言おうとしたシン、しかしその言葉は紡がれない。
轟音と振動が、鳥籠を揺らす。
「うおっ・・!?」
「きゃあっ!!」
ふらつき、よろめく二人。
シンが格子の隙間から外を見ると、同じカーキ色の服に身を包んだ集団が右手を突き出し、炎や雷を射出している所が見えた。
「くそ、もう来やがった!!」
『シン!!こちらユンナ!!敵を前方に確認した!こちらは攻撃するから、中の子を避難させて!』
「ダメだ!篭はこの子の意思で作った物、本人が動こうと言う意思がないから動けない!!」
シンが脳をフル回転させる。
(基本的に霊師が生み出した物体は本人の意思以外ではほとんど動かない・・・俺が説得する?しかしこの状況では・・・)
その時だった。
先ほどの攻撃で内部にあった建物が崩落し、シン達の元へ降ってくる。
「まずッ・・・!」
全身に霊力を滾らせ、
「あ・・!!」
アリスの肩に止まっていた小鳥が、飛び立ってしまった。
一度動くと、すぐには止まれない。
アリスの肩に止まっていれば、慣性の法則によって共に動けた筈の小鳥。
しかし、飛び立ってしまった。
加速する最中、囀る間さえ与えない無慈悲な瓦礫の雨で潰される小鳥を、アリスは見た。
「・・・シン、見に行って良い?」
加速して逃げた先、先ほどの場から約60メートル離れた場所。震えた声で、許可を求める。
シンは静かにうなずき、共に戻る。
当然、小鳥は死んでいた。
僅かに肉片が周囲に散り、羽は赤い液体に染まっていた。おそらく下に亡骸がいるのであろう瓦礫も見つけたが、それを退ける事は躊躇われた。
「・・・やっぱり、なの?」
アリスが独りごちた。
「・・・みんな、私のそばから、離れちゃうの?私は、いつまでも、一人なの?・・・私は、誰にも、必要ないんだよね・・・?」
涙が頬を伝うアリスが天を仰ぐ。
「シンも、そうなんでしょ・・・?」
絶望しきったような、虚な笑みを浮かべて、アリスが空を見上げる。
アリスから、どす黒く、荒れ狂った霊力が溢れ出た。
「――――アリスッ!!」
叫んだ時には、遅かった。
周囲に旋風を巻き起こし、霊力が固形化する。
荘厳な雰囲気を醸しだし、黒いのに純粋な色をした翼。
鳥のような暴霊。
アリスが核となった、暴霊が生まれてしまった。
「アリス・・!!」
シンは、その時――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます