第28話 永い夜


「え・・・?」

言われた言葉が理解できなかった。

一緒にいてほしい、なんてあり得るかーーそう思うシン。

しかしアリシアの目は真剣そのもので、そう言った事に間違いないのだろう。

「勿論だ、今夜一晩一緒にいていいのか?」

「うん!!」

にっこりと天使の如き笑みを浮かべ、アリシアは頷いた。




「・・・私ね、お母さんとお父さんにね、捨てられちゃったんだ」

夜が深まってくる午後11時。

アリシアは何故こんな風になったかの経緯を語り始めた。

「二人に捨てられて、行くあても伝も無かった。ただただ辛かったんだ。そんな時、急に天使と悪魔が降りてきたの、『力がほしいか、欲しいならくれてやる』って」

「アリシア、じゃあ君は・・・」

「アリスでいいよ、私シンの事好きだもん」

隣に腰かけた少女の顔は赤く、気恥ずかしそうな顔で言う。

「うん、私は双霊師・・・隷霊師になった時点で家には帰れないよ・・・なんで、私、捨てられちゃったのかなぁ・・・!!」

悲しそうな声が、泣き声に変わった。たとえうわべは強そうでも、中身はまだ幼い少女なのだ。

何故両親は私を捨てたのか、彼女は分からなかった。各地を転々とし、ただその場に留まっただけだった。

なのに人々からは侮蔑の視線を向けられ、恨み言を吐かれ、攻撃された。

アリスには、それが耐えきれなかった。

「・・・その気持ち、わかるよ」

今度は、シンが口を開いた。

「俺は赤ん坊の頃、親に隷霊を入れられたんだ」

アリスの表情が恐怖と驚愕に染まる。

「・・・嫌われたよ、昨日まで一緒に遊んでた友人が急に冷たくなった。こっちを見るな、ってね」

在りし日を思い出すかのようにシンは言葉を紡ぐ。

「せめて皆を守りたいと思ってRe:Leに入所した・・・でも待っていたのは裏社会の後始末、汚れ仕事ばかりさ・・・笑っちまうよな、守る為の力が人を傷つけるなんてさ」

自嘲的な声色で紡ぐ言葉は、重かった。

「それで、ある殺人犯に言われたんだ。お前と俺は変わらない、同じ人殺しだって・・・それから俺は何も出来ず、ただ暴れて傷つけて、自分を自分で殺した・・・」

シンの頬を涙が伝った。

「俺はただ、守りたかっただけなんだ・・・でも、弱いから、それができないんだ・・・俺には、何も守れないって、思っちまうんだ・・・」

シンも、一人の少年だった。感情を持たず、殺し続けてきた自分を殺したかったのだ。

「大丈夫だよ」

アリスが言った。

「シンは、自分の思った正義を貫き通したんでしょ?だったら、シンは強いよ、大丈夫」


それから、二人は自分達の辛かった過去を、苦しい今を言葉にした。

傷の舐めあいで、生温いぬるま湯につかるような気分だった自分の暗い部分を晒し、自分の行った事を共に悔いた。

許されたかった。

間違ってないと言われたかった。

ただそれだけでよかった。


二人の夜は更ける。


運命の日、日の出まであと一時間。

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