Alice in the bird cage
第26話 鉄格子の中
あの事件から約三週間、フィールも仕事に復帰して少しずつ日常が戻ってきた頃。
クロウに呼び出され、シン、フィール、ユンナ、ラルラの四人はクロウから依頼を託された。
しかし、その依頼というのが、摩訶不思議な内容だったのだ。
「鳥籠、ですか・・・?」
クロウから言われた言葉が、理解できない領域へと入るのが分かった。飲み込め無い、迷宮入り。不穏な単語ばかりが脳裏をよぎっては消えてゆく。
「そう、鳥籠だ・・・国軍の中でも腕利きの奴等が総攻撃を仕掛けて尚倒れる事の無い、もはや要塞の如き鳥籠だ」
「・・・は?」
シンの言葉が全てを表していた。
証拠写真等も見せられたが、どうにも実感が湧かないのだ。
数日前、首都郊外の長閑な畑が広がる地区の一角に突如として現れた超がつく程巨大な鳥籠。
直径はおそらく25メートル程度、光沢を帯びない冷たい印象を抱かせる金属。
余計な装飾は一切無く、無機質な監獄を思わせる籠。
国軍のエリートと言えば、スイサ共和国屈指の戦闘集団、当然シン達のように実戦経験は多く無い為勝るという訳では無いが劣る訳でも無い。
言ってしまえば、精霊師達のトップクラスの戦士、という訳だ。
彼らの攻撃を受けて倒れないということはつまり、シン達でさえその堅牢な護りを破れるか分からないという事だ。
「まぁ、立ち退きの勧告くらいならできるだろうし、籠の管理者に会えたら会って話してみてくれや・・・シン、フィール、ユンナ、ラルラ、任せたぞ」
「了解しました」
「でっか・・・」
ユンナが驚嘆の声を挙げる。
この中で最も身長の高いフィールを五人縦に並べたとしても届かないであろうその高さは、見る者全てに威圧感を覚えさせた。
シンの指示で、錐や焔、矢が鳥籠に向けて放たれた。
当然傷一つ付かず、半ば諦めのような感情が生まれる。
「・・・いや、待てよ」
シンがティルヴィングに霊力を流し、格子の隙間に刃を立てる。
薄い幕のようなものが破け、中へと続く道が開ける。
「ちょっと行ってくる、周囲の警戒頼んだ」
「おう、任しとけ」
「必ず帰ってきてよー」
「約束、だょ・・・?」
三者三様の返答を耳にしたシンは、先へと進む。
「長ぇ・・・一体どこまで続くんだ・・・」
格子を越えたその先は、もはや別の世界だった。
粘土質な何かを練って作られたような壁。しかし、現代のそれとは異なりつっかえる所など何一つとして無い滑らかな壁。亀裂が至る所に入り、コンと叩けば小さな破片の一つや二つは落ちてくるだろう。
道は石が幾つも転がり、建物が倒壊したのであろう巨大な瓦礫が無造作に積まれている。
窓を突き破って大木が生えていたり、くすんだ白色の壁に苔が涌いていたり。
かの霊木ユグドラシルが育つ前に存在していたとされる旧時代を想起させる物ばかりだ。
石畳とはまた違う舗装をされた道を、中心へと向かって歩く。
革製のブーツはコツコツと硬質な音を立て、シンの意識をより警戒へと持っていく。
中央は、他と比べられない程の瓦礫が積まれていた。
建物は無く、噴水の跡地に瓦礫が置いてあるのみ。
燦々と格子から漏れた光が降り注ぐその地に、彼女は腰を下ろしていた。
「君、は・・・」
「・・・誰?・・・誰でもいいや、出ていって」
思わず声を出すシン。
そして、無機質で冷淡な声色で答える少女。
長い金髪は少し白髪が混じって全体的に薄い印象を抱かせる。シンよりも鮮やかで明るい色をした蒼い瞳は不安と不信にそまっている。
華奢な腕、生白い肌。ドレスの襟元から見える鎖骨は今にも折れそうだ。
「・・・何で、ここにいるんだ?」
「・・・出ていって」
シンは引き下がらない。
「君は・・・君は、誰」
「出ていってよおおおおおおおお!!!!!!」
最後の一言を言い切る前に、彼女が絶叫した。
突風が吹き荒れ、シンは思わず目を閉じる。
目を開けたら、そこは格子の外。
仲間達が心配していたが、シンはそれどころでは無かった。
「あの子は・・・」
心臓が高鳴る。
頬が紅潮する。
未体験の感情が、シンの体を駆け巡った。
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