第25話 シンの力

病室のドアが開き、回復系の精霊師が退出する。

「先生!フィールは!?」

「大丈夫ですよ、一命は取り留めました・・・ただ、職場に復帰するには一週間はいるでしょうね」

一週間と聞き、安堵の表情を浮かべるクロウとシン。

「よ、よかったぁ・・・」

「お疲れさん・・・さて、じゃあ」

クロウの表情が柔らかな物から険しい物へと変わる。

「詳しい事と、調査をさせてもらう・・・図書館へ行くぞ」

「はい・・・」




「ほう、古技術経者アトルーターねぇ・・・」

古技術経者。

かつて世界樹ユグドラシルが幼木の頃に生まれた卓越した戦闘センスを持った人類。

遺伝子に刻まれたそのセンスは、後世へと引き継がれ続ける。

「とりあえず、文献をあたるしかねぇか・・・」

「め、めんどくせぇ・・・やりたくねぇ・・・めんどくせぇ・・・」

唸りを付けてクロウの鉄拳がシンの頭上に振りおろされる。

「ふ――――ッ!!」

肩から青い幾何学模様が伸び、シンが加速、横飛びで回避。路上に彗星が堕ちたかのような痕跡が出来上がる。

「くおぉぉ!!いっってえええええええ!!!」

クロウが涙目になりながら拳を押さえる。流血、擦過傷まみれの拳には微かながら霊力が纏われていた。

当然、シンも回避の為に加速する。刹那の攻防がこの惨状を生んだのだ。

「へっ!!ボスなら見切って下さいよ!!」

「うるせぇ俺が見切れるのは音速までだ!!てめえみてぇななんざ見切れるか!!」

シンの加速は光速の域にまで到達しているらしい。

クロウの目も異常だが、シンも異常。

もはや、Re:Leは異常者の集まりとなっていた。





国立図書館。ここには億単位での蔵書があり、物事を調べたいならまずここに来いとさえ言われる。司書でさえ覚えきれない蔵書の中には古代文字で書かれた文献も存在し、現代で読める者は誰一人としていないらしい。

ある程度の条件や要項を満たせば機関からくりが自動で指示を出し、調教された使い魔やその場の司書達が取りに行く、というシステムになっている。

シン達の求める条件は当然、古技術経者。

「その条件に合致する記述がある本は30点、古代文字の文献が一冊ございます」

司書が言うと同時、後ろの戸から31冊の本が出てくる。

どれも分厚く、読むのには時間がかかるであろう事は用意に想像がついた。

「・・・めっんっど」



「・・・記述はあれど、あんま実入りはよくねぇな・・・」

クロウが呻く。

シンの頭もボロボロだ。シンはそもそもこういった文学が好きじゃ無い。

そして、手に取った本は古代文字の本。

到底現代の人間には読めない本。


「・・・あ、あれ・・・?」


何故か、シンの目には、それが『ちゃんとした文字』として認識できるのだ。

ページをめくる手が止まらない。視線は左から右へと忙しなく動き、そのを追う。

「あ・・う、おぉ、あ、あぁあ・・・?」

自分でも何を言ってるか分からない。

ただただ膨大な情報が脳の中に流れ込んでくる。


話を要約していくと、以前から分かっていた事に加えてこのような事も分かった。


『技術には色がある』

『色の名を冠する技術を持つ者はその技術の最上位に位置する』

『古技術経者同士が近づけばぶつかり合う』


『勝者には技術を授けられる』


「う、おぉ、おお・・・・」

目が輝く。真っ青に輝いた瞳に、情報が焼き付けられてゆく。

「し、シン・・・?」

クロウの心配した声が聞こえる。

シンは上の空、ただただ情報量に身を委ねる。


「は、はは・・・なるほど、なるほどね・・・!!」

シンは、気づくことも無く声を挙げるのだった。





「総員、撃てぇッ!!」

首都郊外、巨大な畑の真ん中にそびえ立つ鳥籠に向けて精霊の力や武器がぶつけられる。

揺るぐこと無く屹立し、傷つかないそれに、掃射した国軍の兵士達は疲弊と驚嘆を禁じ得ない。


「近づか、ないでよ・・・・」

鳥籠の中心、少女は微かな声で呻いた。

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