第24話 古代の通過者
「・・・なんだい、その模様は」
「さぁ?」
訳が分からなくなる程に気分が高揚する。奴を敵と認識したからだろうか、意識が加速し、フィールを目視する度に沸々と怒りがわき上がる。
冷たい刃を首に押し当てた時のような感覚が身体を駆け巡る。
そして、不意にその名が口を突いて出た。
存在を告げるその名を。
「<
血液が全身を凄まじい速度で巡り、痛みがシンを苛む。
身体が、変わる。この成長についていける身体へと変化する。
細胞はより強固に、脳は振動に耐えられるように。目は、進化につれて最も変化した。
視界が青く染まり、床は正方形や正六角形で埋め尽くされ、視界の端には数式が見える。
『y=ax+b』
シンが最も得意とする数式だ。
この数式は一次関数、要は比例の式。
己の強さも、きっと比例している。
シンはそう願い、口に出す。
「・・・俺は、傷つけたくない。でも、大事な人を傷つけるなら、傷つけも殺しもする・・・これが俺だと、証明する為に」
冷たく、青い瞳が淡く輝く。
ティルヴィングとグラムの白刃を煌めかせ、宣誓した。
「古技術経者、だと・・・!?それの遺伝子を持つのは、世界にたった数名なのに・・・ッ!?」
「じゃあ、俺にこれを入れたのはその数名なんだろ」
冷たく吐き捨て、腰を落とし、剣を構える。
「ふん、甘いねぇ!!ほぉらぁ!!」
男が両手で三角形を作る。魔方陣が浮かび、数個の氷弾がシンに向かってやってくる。
シンは避ける素振りさえ見せず、直立不動。
着弾し、血があふれ出る――
氷弾が、シンをすり抜ける。
地面に着弾した氷弾は土を穿ち、堅い層にぶつかり、砕ける。
「何故、何故通らない!?」
「単純だ、避けた」
高い戦闘技術を持ち、その技術は代々受け継がれる。
しかし、それを現在の人類の祖先が淘汰し、その技術を遺伝子として抜き取った。
それを身体に取り込めばその技術を受け継げる。
シンが受け継いだ技術は、『加速』の技術。
刹那、軌道と威力の予想演算を行ったシンは、氷弾が来る方向を理解し、避けた。
ただし、速度は秒よりも小さな数。フレームの領域。
最小の動きで回避し、すぐに元の位置へと戻る。
強く身体も頭も揺さぶられ、常人の身体ならば身体を軋み、目は処理が追いつかず酔いが回る。
しかし、先ほどの身体の変化によって目も、身体も、脳さえも変化したシンには、たいした事では無いのだ。
残像だけを残してシンは、再び思考の海に身体を沈める。
(あの魔術、速度と威力からして軍部で開発された物・・・そして魔方陣に刻まれた言語、ありゃあドルツの魔術か)
ゴリゴリの軍政国家、ドルツ。スイサと隣国にあり、度々侵攻に来ては追い返される。
帝国主義を掲げる彼らが欲しいのはただ一つ、植民地だ。
「避けた・・・避けた、だとぉ・・・ッ!?」
信じられない、といった表情を浮かべる。
こめかみには青筋が浮かび、目は充血、瞳孔は全開だ。
再び三角形を作り、術式を編む。
魔方陣が浮かび――
陣が、ガラスの様に砕け散った。
破片は空中で解け、大気に混じり、消えてゆく。
シンの抵抗霊力の力で、切られた陣が砕けたのだ。
男の後ろに立ったシンの手の中の双剣が、不気味に輝く。
「遅ぇんだよ馬鹿、発動までの時間も計算できるぜ」
愕然とした表情、あり得ない、信じられないといった表情で、男は激昂する。
「馬鹿・・・!?この、ドルツ屈指の秀才とさえ呼ばれたこの僕を捕まえて、馬鹿だとぉッ・・・!?」
向き直り、シンを睨めつけ――
シンが視界から消える。
砂煙を視界に捉えると、男の視界は上下左右が幾度も反転し、視界が下落する。
「・・・ぁ・・・?」
掠れて、聞き取れない声。男には理解できなかった。
「ばーか、負けるかよ・・・」
首が落ちていた。男の首だ。侵攻はおろかたった一人の人心さえ掌握できず、生を終えた。
「特措法に基づき、権力を行使しただけだ・・・待ってろフィール」
覚えた力は加速の力、シンは、病院への道を神速で駆ける。
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