I don't want …/Wake up true
第22話 この手が悪い
「・・・あぁ」
眼を開けたら、見慣れた部屋の天井があった。
また戻って来てしまったのだ。この救いが一つも無い『地獄』に。
「・・・嫌だなぁ・・・」
寝返りをうつ。いつもなら二度寝しようとして電話がかかってくる時刻、しかし今日は一向にかかってくる気配も無いし、シンにも寝ようという気が起きない。
やることは無いけど、あの職場へ行くのも気が引ける。
「・・・なんで、俺は戻ってきたのかな」
あの日、シンは間違い無く自分の胸を刃で刺し貫いた。あの時の鮮烈な痛みは今も覚えているし、傷口が灼けるように熱く痛かった事も覚えている。
そして、あの生が遠ざかっていく喜びも。
やっぱり、ここに居たくない。
霊力を集めて、あの日のように胸元へと運び――――
刺せなかった。
先端が体に触れた途端、体が竦んで動かない。
いつしか刃は崩壊し、また大気中を霊力として彷徨うのだ。
「・・・弱いな、俺」
結局、出勤する事にした。
正直、行きたくなかった。
人を殺すなんて事は勿論、できる事なら傷つけたくなかった。
本当なら外に出る事無く一日を終えるつもりだったが、自分が弱い事を情けなく思い、こうしてなんとか外に出たのだ。
「・・・はぁ、憂鬱だなぁ・・・」
虚で死んだ眼で空を見上げる。
空は青く晴れ、澄み渡っていた。
もうすぐ夏が来る。心なしか日差しも強くなった気がした。
時刻は午前11時。直に気温も上がって少し過ごしにくくなるんだろう。
「ひ、ひったくりだあああああ!!誰か!!誰か!!捕まえてくれぇ!!!」
シンの耳に叫び声が届く。
いつかと同じ、この大通りのひったくり。
もう関わらないんだ。私は傷つけたくないんだ。
そう思っていた。
筈なのに。
手が勝手に動いていた。
腰に備えていた手のひらサイズの剣を投げていた。
反射だった。シンの意思で投げていた。
そして剣は狙い過たずひったくり犯の男の手に突き刺さり、荷物を手放させた。
ひったくられたおじさんは荷物を取り戻して走り去る。
その後すぐ軍警が来てひったくり犯を逮捕した。
「はぁ、はぁ・・・おぇっ・・・」
人を傷つけてしまった。罪悪感から強烈な嘔吐感がこみ上げ、裏路地に走り、一人戻していたのだ。
口の中が酸っぱい。喉が焼ける。
気づけば涙が出ていた。
でも、超えないと。
自分が辛くても、超えないと。
そうじゃなきゃ、俺はいつまでも殺した奴に顔向けが出来ない。
「行く、か・・・」
Re:Le事務所の重い扉を押し開ける。
また、始まるのだ。
この『辛くて楽しい地獄』が。
今まで殺してきたのは、この手が悪いんだ。
きっと、これから俺は変われる。
そう思えたんだ。
でも、その平穏さえも一瞬で奪われる。
だって、ここは地獄だから。
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