第23話 Rising sin


「復帰早々、依頼なんて大丈夫なのか?シン」

「仕方ない。このままだと支障をきたしてしまう」

シンはフィールに頼んで依頼を受けた。

人を傷つけたくない、そう思っているシン。

しかしシンは決意したのだ。

自分が今まで殺してきた人達の死を無駄にしない。その為にも、早く仕事に復帰する。

報いなければ。シンの思いはそれだけだった。

「・・・で、まぁ今回の依頼は簡単だな。猫探し」

そう、猫探しである。

なんでも脱走名人、いや名猫らしく毎回毎回逃げ出すんだそうだ。

「まぁ、富豪の家の猫だから、堅苦しいのは嫌いとかそんなんだろ」

「かもな」

シンの口数は少ない。

フィールを傷つけた事をまだ悔いているからだ。

「とりあえず二手に分かれるか、シンは西側を頼む」

「あぁ、じゃあフィールは東側な」

二手に分かれて捜索を開始する。




「あー・・・いねぇなぁ・・・」

西側の藪や林を回りながらシンは呟く。今まで居たという場所を巡っているが、猫には会えていない。


突如、後ろでドサッという音がした。

猫か、ならば捕まえねば。

シンが振り向く。


そこにいたのは、物言わぬフィールだった。

「・・・フィー、ル?」

状況が飲み込めなかった。

何で、フィールが?何もしていないだろう?何故こっちに?

背中からドクドクと血を流して横たわるフィールを連れてきたのは、眼鏡をかけた痩せこけた男。

「くふふ・・・君がシンくんだね」

ニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべた男が、手を振りながらこちらへ来る。

「・・・誰だ、フィールに何をしたッ!!」

事実、シンはそこから一歩も動けなかった。


胸ぐらを掴んで問い詰めたいところではあった。

「何をした、か・・・簡単さ」

眼鏡の男は笑みながら話す。

「彼が何かを探している間に、後ろから突き刺しただけさ」

その瞬間、シンの頭に血が昇り、怒りが沸点を超える。

それでも男はさぞ愉快そうに笑い、衝撃的な一言を告げる。

「彼が最後に言った言葉はね・・・『シンには言わないでくれ、どうせられる一人でいい』だってさ!!あはは!そんな事、聞く訳ないよね!!」

フィールの元へとシンが駆け寄る。

その傷口はまだ生々しく、見てるだけで痛々しい。

ニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべるだけで、ただじっと見る男。

(痛かったよな、辛いよな・・・)

シンの頬を涙が一筋伝った。

「じゃ、君も彼の元へ送ってあげよう」

口角をつり上げ、鉈を振り上げる男。

(・・・俺が身を置くって決めた世界は、こういう世界だ・・・なら、世界の法則に従うしかない)

シンから、先ほどまでの比にならない程の殺気が放たれ、振り上げた鉈を取り落とさせる。

青い火の粉のような物がシンから迸り、周囲の霊力力場が乱れる。

突風が巻き起こったと思うと、シンはフィールと共に十数メートル後退していた。

「・・・一度黙れ」

ゆらりとシンが立ち上がる。

剣を構えるシンの左肩から左頬にかけて、水色の線と点で繋がった幾何学模様が浮かび上がっていた。

「お前を、黙らせる」

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