第19話 過剰出力、暴霊の核
市街地では人が逃げ惑っていた。振りおろされる黒い霊力の腕は鞭のようにしなり、地面に叩き付けられる。
建物は崩れ、タイルが宙を舞う。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
体から剣が生える。
数秒後に、剣が射出された。
一般人に、凶刃が迫る――
「うおらぁぁああ!!!」
「たらっしゃあああああ!!」
「ん、ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
煉獄が、錐が、矢が剣を弾き飛ばす。
大鎌を持った男が舞い散った瓦礫を足場に駆け上がる。
黒と赤のオーラを纏った刃が車輪のように回転しながら襲い来る。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
「まずいな、ありゃ
クロウが落ち着き払って呟いた。
本来必要な量吸収する霊力。その吸収量が消費量を上回ったり、吸収の制御が効かない状態の事を指す。
そして、その状態になると文字通り精霊や隷霊に呑まれる。餌や力の根源である霊力を余分に供給されるため、主たる人間に反旗を翻し、その体を強化された肉体を以て呑み込む。
そしてその状態を
「畜生、刃が通らねえ!!」
「そりゃボス刃に霊力流すからですよ!!あれは抵抗霊力の塊ですよ!?」
フィールの意見は至極真っ当だった。
今、暴霊の体は高密度の霊力、しかももしシンが核ともあれば当然抵抗霊力の力が働いて刃が押し戻されるのは必至だ。
「おい!!見えたか!!」
組員の一人にクロウが問う。
「見えました!!核はやはりシンです!!目を閉じてるあたり、意識も自我も蘇ってないです!」
「成る程な、こりゃまた面倒だなおい!」
シンのように叫ぶクロウ。しかし、彼が面倒だと言う事は本当に面倒なのである。
本来、暴霊状態を解除する為には、主の意識と自我が戻る必要がある。
植物的では無い意識と、確固たる自我が覚醒する事で暴霊化した精霊や隷霊を抑え込み、本来の姿に戻る事が出来るのだ。
「とりあえず一旦退いてくださいよ!結界付与するんで!」
フィールが必死で叫び、クロウをどうにか下げる。
「ぃぃ?シンは、大丈夫・・・シンは、正義だょ・・・」
ラルラが誤認をかける。しかし、それさえ聞き入れない。誤認は霊力として体に吸収されるからだ。
「ダメ・・・かかんなぃ」
「じゃあ私の貫通も効かないじゃない!!打つ手無し!?」
突如、暴霊、いやシンが叫ぶ。
その咆吼は悲痛な何かを孕んでいて、そして、霊力も多量に含有していた。
上空で黒雲が渦巻き、不吉な音を鳴らす。
轟雷が、地上に降り注いだ。
激しい音と電気、熱が暴力と化してクロウ達へと向かう。
まずい、死ぬ。
この場に居るほぼ全員が思った。止める筈が、逆に自分達が抑えられ、死ぬ。
何も出来ず、終わる。
「――諦めてんじゃ、ねえぞぉぉぉぉおおおああああああああああ!!!!!!!」
只一人、勇猛に声を挙げ、天に手を翳す。
フィールだった。
周囲の霊力をありったけ総動員し、最も堅牢かつ強固な結界を張る。全天周防御だ。
フィール自身が扱える最大霊力量を遙かに凌駕する量の霊力を同時に扱う。
体に恐ろしい程の負担をかける事となるこの行動、当然ながら反動が起こる。
全身の毛細血管が破れ、鼻血が止まらず、眼も充血する。
口からも血が出る。
「確かに、そうだね・・・!!!私もやんなきゃ!!」
ユンナが跳躍する。その距離、約5メートル。錐が雷に触れ、力が拮抗しあう。
錐は金属、感電する事は絶対だった。
眼の瞳孔は開ききり、錐を持つ手が震える。
ユンナは歯を食いしばり、錐を持つ手をより強く握り直す。
ユンナの隷霊の力で、雷を錐と風が貫く。
「無駄なんかじゃ、なぃ・・・!!!私の矢は、貫ける・・・!!!」
ラルラの矢が、シンに射出される。
シンの抵抗霊力とラルラの矢。その力はお互いを押しつ押されつを繰り返す。
弾き飛ばされる筈であろうその矢は、シンの体に突き刺さる。
三人は、クロウ達の方へと向き直って叫んだ。
「「「私達の思いは、あんなしょぼい攻撃や体で壊れはしないッ!!!」」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます