第11話 仮説
「本当か!?」
クロウを一度現場から遠ざけ、話を始める。
「敵はおそらく隷霊師、そして剣士である事は間違い無いと思います」
長く、束ねた黒髪を揺らしながら言葉を紡ぐ。
「そしてムラムネと言う名前からヤマトの出であるとします。ならば刀を使うと予想される」
刀は一撃の威力や切れ味が恐ろしすぎる武器。刀ならゴルイスの胸筋を切るのも容易いだろう。
「そして肝心の時間関係、これが隷霊の物です」
「・・・何故そう考えた?」
「まず精霊は生み出したり変えたりといった事しか出来ません。つまり、時間を動かす、変えるなんて事は隷霊にしか行えません」
精霊は小さな力しか扱えない。生み出す、変える、会わせる等の力しか行使できない。世界の理に感傷するという強大な力は、莫大な力や概念を具現化した隷霊にしか行えないのだ。
「そしてそれなら隷霊の使用した霊力は周囲に残りません」
「・・・成る程、それなら残滓が残らない理由も納得がいく」
クロウも腕を組みつつ仮説を聞き入る。シンの仮説には、それぐらい説得力があったのだ。
「そして、隷霊の能力です」
その一言でクロウの眼が大きく見開かれる。
「おそらくの話で、憶測の域を出ませんが・・・遅延させる能力だと思います」
「・・・ほう?」
「そして、その能力。行動を起こし、その結果は即時適用されるけど、その結果が目に見える状態・・・つまり傷として認識できる状態になるのを遅延させる能力」
見れば、周囲に組員や軍警の人まで集まっていた。
「だから、『死』という事実が変わらないから魔水晶は育つけど、肉体として見える死、つまり血液の動きなどは一緒だから死亡推定時刻との辻褄が合わなかった」
「お、おぉおー・・・」
その場の全員から驚嘆の声が漏れる。
「だから戦う上では厄介極まりない相手です。相手にどれだけのダメージが入ってるかが認識できないからです」
クロウは思わず声を上げる。
「凄いじゃないか・・・どうやったらそこまで考えつくんだ?」
「これまでの事を全て式にして解くと、こんな仮説にたどり着きました・・・ボス、これまでの現場の位置と日時分かりますか?」
クロウは懐から会議の資料を取り出す。それを見たシンは「やっぱり・・・」と呟いた。
「次の箇所が読めました」
「・・・本当か!?」
シンは資料を見せながら答える。
「毎日行われているので明日もある筈、ならそこに出向くまでです」
一息ついて、シンは言う。
「それぞれ12区を6区飛ばしで二の街三条を回っている・・・つまり」
「明日、第5区二の街三条か!!」
得心がいったようにクロウが答える。
「そうかと思われます・・・明日、俺が行きます」
思わずクロウは危険だ、やめろと言おうとしたが他の組員達から止められる。
見れば、シンの眼は怒りに染まっていた。恐ろしく冷たく、薄くて鋭い怒りだった。
「俺に、ケリをつけさせてください」
翌日、シンは第5区二の街三条を歩いていた。
前から来たフード付きのポンチョを着た人物とすれ違う。
一歩、二歩、三歩。四歩目を踏み出した瞬間、甲高い金属音が響く。
「・・・やはりな、貴様がモトナリ・ムラムネか」
「やりおる、この私の居合いを防ぐとは・・・お前も私の糧にしてくれる!!」
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